「【”私、狂ってるから、ずっと・・。”愛する夫を突然の失踪により”30年間待つ女性”を田中裕子が抑制した演技で魅せる、静かで哀しき作品。 ”夫婦の愛、繋がりとは何か”を考えさせられる作品でもある。】」千夜、一夜 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”私、狂ってるから、ずっと・・。”愛する夫を突然の失踪により”30年間待つ女性”を田中裕子が抑制した演技で魅せる、静かで哀しき作品。 ”夫婦の愛、繋がりとは何か”を考えさせられる作品でもある。】
ー 舞台が新潟の佐渡島なので、失踪の原因は幾つか考えられる。
”隣国”による拉致(特別失踪)。
海での事故。
だが、登美子(田中裕子)の夫(阿部進之介:写真と声のみで出演)は、幸せの絶頂だった新婚時に姿を消す。
劇中、殆ど音楽も掛からない静かな作品であるが、田中裕子さん、尾野真千子さん、安藤政信さんという名優たちの確かな演技が、この作品を支えている。-
◆感想
・田中裕子演じる登美子は、劇中一度も笑わない。夫が失踪してから彼女の表情から”笑顔”は消えたのだろう。
ー 登美子は、夫が失踪しても自分を慕う漁師の春男(ダンカン)の求愛にも反応しない。死亡届も出していない。只管に愛する夫の帰りを待っているのだ。ー
・そんな彼女の元に、2年前に夫、洋司(安藤政信)が失踪したという奈美(尾野真千子)が、やって来る。フラリと散歩に出かけたまま、帰らないという。彼女は夫が失踪した理由を考え、自分を慕ってくれる男(山中崇)との関係も考え、自分の心と折り合いを付けようとする。
■漂泊の想い
・作家、檀一雄は、生前屡々、”失踪”したという。彼の言葉によると、”何かに突き動かされるように、何処かに行ってしまいたくなる。”のだそうである。
今作で言えば、奈美の夫、洋司が口にした言葉に似ている。
”幸せだが、茫漠たる未来への不安・・。”
・登美子が、新婚時の夫との遣り取りを録音したテープをカセットデッキで何度も聞くシーンの登美子の表情。そして、テープは擦り切れ、切れる。
ー 何とも切ないシーンである。夫と登美子の幸せそうな声。-
・漁師の春男が、登美子に袖にされ、行方不明になっても、登美子の姿勢は揺るがない。
・ある日、街中で登美子が見た奈美の夫。喫茶店で、彼を詰ることなく無表情に夫の言葉を聞く登美子。そして一言。”私の夫だったら、殴っているわ。”
奈美の夫は登美子に付き添われて、自宅へ。そこには、奈美が一緒になろうと決意した男とともに、奈美がいる。そして、何度も夫の頬を叩く。
ー 家を追い出された洋司が、登美子の家を頼り、擦り切れたテープを直し、二人で聞くシーン。
”幸せそうですね‥。”という洋司の言葉に、微かに微笑む登美子。
そして、翌朝、洋司は、静に登美子の家を出る・・。-
<今作は、新潟・佐渡島の風景を背景に、人心の不可思議さと、失踪した夫を待つ妻の大人の愛の物語である。
”夫婦の愛、繋がりとは何か”を考えさせられる作品でもある。>
■余計な事は、重々承知の上で・・。
とても、静な作品なので、睡眠はキチンと取ってから鑑賞されると良いと思います。
こんにちは。
登美子が仕事から帰宅する最初のシーン、扉を開ける瞬間少し間を置いてからの「ただいま」。ああ、まだ待っているのか…と思いました。
愛し方に正解はないし、登美子も奈美も自分に素直に生きることが理想だと感じます。それを美化し過ぎずドラマチックにし過ぎないのが本作の奥ゆかしさと感じました。