配信開始日 2022年5月11日

「興味本位で受けたDNA検査がこじ開けたパンドラの箱から溢れ出る醜悪極まりない事実に言葉を失う壮絶なドキュメンタリースリラー」我々の父親 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0興味本位で受けたDNA検査がこじ開けたパンドラの箱から溢れ出る醜悪極まりない事実に言葉を失う壮絶なドキュメンタリースリラー

2022年7月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

ということで昨日はこちらも観てました、ネトフリのドキュメンタリー『我々の父親』。不妊に悩んだ夫婦が高名なクライン医師のもとで不妊治療を受け、匿名のドナーから提供された精子で娘ジャコバを授かる。一人っ子として育ったジャコバは自分と同じドナーから生まれた兄弟姉妹がいるのではないかと興味本位でDNA検査結果から遺伝子系図を作成するサービス23andMeを使ってみると、7人も兄弟姉妹がいることが判明。その数の多さに驚いたジャコバは7人にコンタクトを取りそれぞれの出生について確認したところ7人全員の父親がクライン医師であることを知らされる。

ホラー映画の製作で有名なブラムハウス・プロダクションズの作品なので、おどろおどろしい再現ドラマを巧みに織り込んでいてテイストとしてはほぼスリラー映画。厳格なドナー選定を行なっているはずの不妊治療の綻びから次々に露わになる衝撃的な事実はとても現実のものとは思えない凄惨なもの。それは神にも縋る思いで不妊治療に踏み切った夫婦とその子供達が受け入れるには余りにも重たいもの。それでも勇気を持って全てを明らかにしてクライン医師を告発しようと奮闘する彼女達の前に立ち塞がるのが世間の無関心と司法の壁。

クライン医師がジャコバに告げたのはエレミヤ書1章5節。劇中には言及されませんが、内容は以下。

“わたしはあなたをまだ母の胎につくらないさきにあなたを知り
あなたがまだ生れないさきにあなたを聖別し
あなたを立てて万国の預言者とした“

この一節で自身の行為を正当化しようとする醜悪さにぞっとしましたが、これはまだ序の口。神をも恐れぬ厚顔無恥の向こう側に浮かび上がるさらなる闇に絶句させられます。壮絶に重い作品ですが凄惨な事実を受け入れることに苦悩する人々がお互いの存在に勇気づけられながらなおも事実を追い求める姿に激しく胸を打たれました。

よね