「丁寧に紡がれた物語を一頁ずつめくりながら知るような。」プアン 友だちと呼ばせて humさんの映画レビュー(感想・評価)
丁寧に紡がれた物語を一頁ずつめくりながら知るような。
亡父と同じ病で余命宣告を受けたウード。
死ぬ前に心の清算をしようと、友人ボスに旅の運転手を頼む電話をかける。
病のことを聞いてなお淡々として軽いボスの様子で暗い雰囲気はない。
それどころか彼のハイでpopなイメージで旅は始まる。
それを貫いたのは電話口で一瞬固まったボスの思いやりだったのかもと。ボスの華やかさの裏にあるものがわかってからふと気がついた。
ウードの父が遺したBMWに流れる古いカセットテープA面。
DJだった父の意味深い言葉とレトロな音楽が車内を包む。流れていく美しい景色や採光は生き生きとしてまばゆいばかり。
ウードにとって命あってこその堪能と父への愛、懐古の表現だろう。
3人の元カノたちとの再会。
幸せなときだけではなく哀しみや傷みも呼びもどす過去との対面。
視線や声の抑揚や動作に感情のみなぎが浮き彫りになる彼女たち。
忘れているようにしてて、皆、忘れることのない昔の心情に一瞬で還るのだから動揺は無理もない。
対して、すべてを受け止め波のない夕陽の浜に佇んでいるような面持ちのウード。
それはおそらく彼女たちの知るかつてのウードではないとおもう。
今、その目にゆらぎのない強さと穏やかさを宿らせているのは、命の限りと決心を実感しているからか。
車と残りの時間は進み続ける。
カセットはB面へ。
巡礼の旅を遂げうちあげにと、ボスがバーでウードにカクテルをつくる。
それぞれの彼女との思い出に由来させて名前をつけながら。なるほどなるほど、、洒落たネーミングで唸らせる。(どこかで不味いと言われてたけどほんとにちょっと不味そうな見た目^^;)
そして4杯目は、ウードがボスにリクエスト。
その名もOne for the Road 別れの一杯だ。
ここから大変。
ウードの告白によりボスの過去に焦点があたる。
ウードとのまさかの運命が交差する。
接点はプリム。
はじめてわかる真実でB面は嵐を呼び渦を巻き感情をのむ。
脈があがるクライマックス、味わったことのない感覚が降り注ぐラスト。
ウードがボスとの旅でいちばん成し遂げたかったこととは。。。
Nobody Knows
愛おしい今を生きていることを忘れないで。
君は君の大切な人生を生きているんだから。
脚本を書いた監督の自伝的要素が静かに語りかけ、問う。
エンドロールの黒い画面に浮かぶ白い歌詞、滲んでしまっても無理はなかった。
素敵でした。