「DOWN/ダウン」#マンホール 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
DOWN/ダウン
先日見た『FALL/フォール』は地上600mの高さのTV塔に取り残されて…。
一方こちらはマンホールの穴の中に落ちて…。
極限状況下でのサバイバル。もしあなただったら、どっちの方がマシ…?
…え? まだ地に足が着いているマンホール? いつか誰かが気付いてくれるって?
いやいや! そうも言ってられないのよ。
一流不動産会社に勤務。営業成績もトップ。上司や同僚からも人望厚い。社長令嬢と婚約し、明日結婚式。おまけにイケメン。
何事もパーフェクトの川村。
サプライズパーティーで盛り上がり、その帰り。急に酔いが回ったのか、ふらふらと…。
気付いたら、何処ここ?!
汚ならしい穴の中。ムカデやクモやネズミの死骸が…。
どうやらマンホールの中に落ちたらしい。梯子を伝って出ようとするが、脚を負傷。結構酷い怪我。思うように動けず…。
無理して動き、梯子をよじ登っていたら、案の定梯子が壊れ…。
自力脱出は望めなくなった。
明日は結婚式。早く脱出しなければならない。
不幸中の幸い。スマホは通じる。GPSで場所も分かった。
婚約者や友人に連絡。時間も時間だけど、こういう時に限って出ない。
手当たり次第知人に連絡。その中に元カノも…。唯一出てくれたが、まともに受け止めてくれず…。
面倒は避けたかったが、そうも言ってられない。やっと警察に連絡。イライラするような事務的質問の後、ようやく救助を派遣。
…が、いつまで経っても救助が来ない。
雨まで降ってきた。
元カノの舞が心配して連絡してきた。彼女との会話で、驚きの事が分かる。
雨が降っているのに、舞は雨が降ってないと言う。
GPSで示された場所が違う…? だから救助も来ない…?
どういう事…?
酔ってふらふらとマンホールに落ちたのではないとしたら…?
あのパーティーで例えば飲み物に何かを入れられ、眠らされ、拉致され、何処かも分からない穴の中に落とされたとしたら…?
一体誰が…?
犯人探しと何より脱出。
川村はある事を思い付く。
SNS上に“#マンホール”を上げ、救助・場所の特定・犯人の割り出しを求める。
あっという間に多くのフォロワーが集まり、情報や協力で次第に場所の特定や犯人の目星が定まっていく。
が、予想を遥かに超えた衝撃の展開とオチが…!
邦画としてはなかなか面白いシチュエーション・スリラーではなかろうか。
梯子壊れ、怪我、雨、ガス漏れ、廃棄物の泡…。ヤバい事態が続く。
応急手当は痛い!
場所はまるで見当違い。単なる事故かと思ったら、事件性…。
怪しいのは誰…? パーティーにいた誰か…? 同期の友人が怪しい。唯一連絡が取れた元カノだって怪しい…。
動機は…? 妬み…? これだけ順風満帆なら誰かしらいる。それとも恨み…? 川村には悪い噂も…。
今はSNS時代。こういう時でもSNSが救助の手立てになる。
SNSを使って情報提供。警察なんかより頼りになる!
その一方、SNSならではの誹謗中傷。本気で助けようとしてくれているのか、それともただ面白がってるだけなのか。
救助や場所の特定より犯人探しに躍起。怪しい人物もすぐに特定され、SNS上で総攻撃。
不安。苛立ち。絶望。疑心暗鬼。
その穴の中に落ちて、川村も次第に平静でいられなくなり…。
一線を超える。…いや、彼はすでに一線を超えていた…。
もう一度言うが、衝撃のオチ…!
玄人好みのヒューマン・ドラマに手腕を発揮していた熊切和嘉監督が、珍しいエンターテイメント・スリラーに挑戦。一筋縄ではいかない作風を見せる。
『ライアーゲーム』『マスカレード・ホテル』の脚本を手掛けた岡田道尚によるオリジナル。何かと原作氾濫する現邦画界で、オリジナルで挑んだシチュエーション・スリラーは評価したい。
ほとんど一人芝居。Hey!Say!JUMPの中島裕翔が熱演。
以前も『ピンクとグレー』で手堅い演技を見せていた。
その『ピンクとグレー』と通じる演技を感じた。つまり、表の顔と本当の顔。
その演じ分けと次第に明らかになっていく本当の顔は、狂気すら孕んでいた。
主要でクレジットされているキャストは二名。一人は僅かな出演で、もう一人は声のみ。
EDでクレジットされるサブ的なキャスト以外に、思わぬビッグなキャストが! 登場した時そうだよね?…と思ったが、やはりそうだった。
誰かはご自身の目で。ネタバレになっちゃうから!
本作のオチ、ネタバレせずに書きたい所だが、そんな力量ないので、ネタバレチェック付けて触れるとしよう。
とある事がきっかけで場所が分かった。
そこは、因縁ある場所。
やはりこれは、復讐であった。
泡をライターのガス引火で吹き飛ばした時、土の中から腐乱した死体が…。
“この男”の誰にも知られてはならない過去と罪…。
この場所は都内ではなく、埼玉県郊外の廃校。
かつてその近くの工場で働いていた。
同僚が一人退職。東京の大会社へ就職。恋人もいる。
誰もが羨む人生が待ち受けている彼の名は、川村。
その彼を、何者かが襲う。殺す。
死体を穴の中へ。
まだやる事があった。整形外科へ。手術で川村の顔にして貰う。
まんまと川村の顔と人生を手に入れた。
川村は本人ではなかったのだ。本物を殺し、成り済ましていた偽者。
他人の人生を横取りしていたゲス野郎。
そんな彼に天罰。
この憎き男を罠に嵌め、偽りの顔を剥がし、罪を暴かせ、絶望の底に叩き落とす。
恐ろしいほどの執念。
全てを企て、仕組み、唯一連絡が取れていた元カノにも声を変えて成り済まし、SNSでも協力者に成り済まし、目論み通り誘導。
殺された本物の川村の恋人であった…!
このオチは全く予想出来なかった。
てっきり元カノと思っていた。
ただただ衝撃の奈落に落とすのなら、この脚本は成功している。
が、伏線を張り、大どんでん返しで言うなら、失敗している。
何故なら伏線も全く張られていない。同期友人や元カノなど前半に登場した人物は全くの無関係。
後半になって主人公の本性や恨みを持つ人物が現れて、唐突過ぎる。
ただただ衝撃の展開か、大どんでん返しに期待かで、本作の評価は真っ二つに分かれるだろう。
面白味のあるオリジナル脚本だが、ツッコミ所も多々。
端から何で警察や消防に連絡しない? 警察には連絡出来ない理由はあるのだが、それは秘密が明かされてからになるので、序盤では出来ない理由はなかった筈だ。
超充電長持ちのスマホ! 何処の会社のですか…? 充電が残り少なくなり…の危機はない不自然さ。
犯人である恋人、GPSを誤作動させたり、たった一人でこんな計画立てたり、何かのスペシャリスト…?
でも一番の問題は、キャストに中学から麻薬常習のお騒がせの役者や、プロデューサーに今問題渦中の某事務所の社長の名が…。
タイムリー過ぎるWパンチで、某事務所所属のアイドル主演ながら、地上波では放送出来ないだろう。今公開だったらお蔵入りになってたかも…。
先にも述べたが、作品としてはなかなか面白かった。
あの名曲が皮肉に聞こえるダークなラストも嫌いじゃない。
あなたは復讐のマンホールに落とされるほど、偽りの顔に成り済ましていませんか…?