劇場公開日 2023年5月5日

「生きることの根源的な意味」帰れない山 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0生きることの根源的な意味

2023年5月24日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

イタリアの作家の世界的ベストセラー小説を映画化した作品だが、イタリアらしい映画というよりはむしろ普遍的なテーマを扱っている重厚な人間ドラマだった。
都会育ちと山育ちという対照的な2人という設定、かけがえのない友情というテーマ、これは自分の青春時代と重ね合わせることができた。生活環境が違うからこそ引かれ合いお互いの足りないところを補い合ったり、若い時に芽生えた友情を年が経ってからより深めていったりした友人が自分にもいたことを思い出した。
「何者にもなれない」というピエトロ、「やりたいことをやればいい。人生は挑戦だ」というブルーノ。ブルーノのように自由奔放に生きたいと思いながら結局実践できず、結果としていろいろなことに手を出してしまいどれも中途半端な状態になっている、自分はどちらかというとピエトロ型だ。最終的にはピエトロが生き残っているので、ピエトロの人生の方がよかったように思えるが、どちらの人生が正解ということはない。あくまで人生の美学という観点も添えなくてならない。
鳥葬というものがあると知ったのは『ボヘミアン・ラブソディ』という映画を観た時である。フレディ・マーキュリーという人は、両親がインド系でゾロアスター教徒であるが、そのゾロアスター教というのが今日では珍しい鳥葬を行うらしく、映画のラストでフレディが亡くなった時にそのことに触れていた。実際にフレディの葬送は火葬だったようだが、遺体を放置して鳥がついばむなど自然に任せるという方法があるというのは衝撃的だった。
「山の民として生きる」ことを決意したブルーノの死は、生きることの根源的な意味を問うている。

ミカエル