「『マン・オン・ワイヤー』と相通じる狂気と紙一重の野望に寄り添う臨場感たっぷりのドキュメンタリー」アルピニスト よねさんの映画レビュー(感想・評価)
『マン・オン・ワイヤー』と相通じる狂気と紙一重の野望に寄り添う臨場感たっぷりのドキュメンタリー
名だたるアルピニストも一目置く男、マーク・アンドレ・ルクレール。その卓越した技術で世界有数の難所を次々に踏破しているのに世間にはほとんど知られていないレジェンドを2年渡って取材したドキュメンタリー。
見てくれはカリスマ性のかけらもないシャイな青年が少しずつ見せるのは常人には計り知れない努力の積み重ねで獲得した超人的な技術と強靭な精神力。絶壁を淡々と登っていく姿を捉えた映像にはスクリーンを眺めているだけなのにふくらはぎが痙攣し両手に汗が滲んでしまいました。
彼がなぜ無名なのかも次第に明らかになっていきますが狂気とほぼ見分けのつかない境地に至るその過程は、今はなきワールド・トレード・センターに無許可でロープを渡して綱渡りを敢行したフィリップ・プティを追った『マン・オン・ワイヤー』に描かれていたものととてもよく似ています。プティの野望には周囲がどんどんついて行けなくなりますが、マーク・アンドレの野望は彼の母と恋人のブレット、そして多くのアルピニストに支えられているのが救い。仲間の半分が事故で亡くなるという危険極まりない世界で生きるアルピニスト達の固い友情にも心が揺さぶられる力強い作品です。
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