「サーカス団で、若い女性カサンドラ(サンドラ・ジマルスカ)とのコンビ...」EO イーオー りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
サーカス団で、若い女性カサンドラ(サンドラ・ジマルスカ)とのコンビ...
サーカス団で、若い女性カサンドラ(サンドラ・ジマルスカ)とのコンビネーション芸をみせて人気の灰色のロバ・EO(イーオー)。
ある日、団長の債務不履行で団の動物たちは接収されることになった。
それを皮切りにイーオーは放浪の旅を続けることになるが・・・
といった物語で、ロベール・ブレッソン監督『バルタザールどこへ行く』にインスパイアされた作品。
5月公開作の中でもっとも期待していた作品なので、『バルタザールどこへ行く』はもとより、スコリモフスキ監督の旧作2本を鑑賞して挑んだ次第。
結果・・・
うーむ、映像的には観るべきところは多々あるのだけれど、なんだかつまらない。
こちらの心に響かなかった原因を考えると、
1.ブレッソン監督『バルタザール~』にあった宗教臭がほとんど感じられない
2.イーオーが遭遇する人物たちの描き方が点景的であり、結果、表層的な感じとなってしまった
3.イーオーの視点を強調しすぎているがゆえに、ロバと少女の間の偏愛映画にみえてしまう
といったところか。
3つは絡み合っているのだけれど、
『バルタザール~』では様々な人々を描いているように見えながら、その実、ロバを愛した少女とその少女に恋慕する青年の物語に帰結し、結果、汎用の物語ではない深度を感じることができた。
が、本作では、イーオーが遭遇する人々はイーオーにとって一過性・通りすがりの人々に過ぎず、人物の深みを感じるまでには至らなかった。
また、恋愛感情の取り扱いも異なっており、『バルタザール~』では少女と青年のどうしようもない恋愛感情だが、本作ではイーオーとカサンドラとの間の恋愛感情が主軸となっており、傍観者(当事者に関与したくてもできない者)として「やきもきする神」のような感じがあったが、本作ではイーオーが当事者の立場になっている。
で、結果、恋愛の当事者となったイーオーは「キリスト的受難者」ではなくなり、単にひどい目遭うだけの存在となり、最終的には「あ、やっぱりね」のような最期を迎えてしまう。
付け加えるなら、最期を迎えるにあたって、イーオーはその前のエピソードでサラミだのなんだのと言及されており、逃れられない運命だとしても予定調和的な感じがしてしまう。
と、まぁ、どうもこれぐらいのことを思ってしまって、いかんともしがたい。
ブレッソン監督とスコリモフスキ監督の宗教観や社会観の違いと言えばそれまでなのだけれど、寓話に昇華できていないあたり、もしかしたらスコリモフスキに向いていなかった類の作品なのかもしれません。