劇場公開日 2023年2月17日

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「五里霧中」別れる決心 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5五里霧中

2023年7月26日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

興奮

知的

岩山から転落した男の不審死事件。自殺か、他殺か…? 刑事のヘジュンは男の妻ソレに疑惑を抱くが、両者共に惹かれ合っていく…。
このようなストーリーやプロットは古今東西にある。例えば『氷の微笑』など。
それをどう二番煎じにならず見せるか。本作の監督はパク・チャヌク。ならば期待するのは過激なバイオレンスやエロスの描写。ましてやヒロインは『ラスト、コーション』のタン・ウェイだ。
刑事と容疑者の立場でありながら、禁断の関係へと深みにハマっていく…。度肝を抜いた『お嬢さん』の性描写再び…。
が、ある意味驚いた。チャヌクの作風でもあるバイオレンスもエロスもナシ。一体どうしたというのだ、チャヌク…!?

インタビューで、今回は必要なかっただけ、と、さらりと言ってのける。
これを筋金入りのファンは期待外れと見るか、新境地と見るか、人それぞれだが、個人的には新境地と見た。いや、その手腕はますます冴えたものに。
唯一のバイオレンス/グロ描写はハエが群がる死体ぐらいだが、特筆すべきはエロスの描写。“官能描写”と言った方がいい。
直接的な描写はほとんどナシ。終盤も終盤にキス・シーンがあるくらい。劇中の二人の視線、表情、仕草、醸し出す雰囲気や距離感…ふとしたそれらが堪らなく官能的なのだ。パク・ヘイルとタン・ウェイの名演も大きい。
もはやエロスを描くのに直接的な絡みをわざわざ描かない。そんな匠の域にまで達しているのである。

官能的でありつつ、終始ミステリアス。ユーモアも孕む。
知的で複雑のように見えて、主軸は実はシンプル。オチも意外なほど呆気ないもの。
それをまるで劇中の如く霧の中を彷徨わせるかのように、見る我々を翻弄させる。
現実、妄想入り乱れ。
分かったような分からないような、奇妙で独特。その感覚すら何とも心地よい。
この韓国の鬼才は、やはり只者ではないと改めて心底思わせる。

近大