劇場公開日 2023年2月17日

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「海を愛するのは賢者であり、山を愛するのは聖者である」別れる決心 とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0海を愛するのは賢者であり、山を愛するのは聖者である

2023年2月8日
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【崩壊】[ほうかい]崩れて壊れること…"単一"な映画監督ポン・ジュノ最新作は今までと違った方法で後世に残るような作品だった

韓国ノワールとはよく言ったものだが、こんなにしっかりと"ノワール"しながら、そうした言葉が内包しているものをもっと深い所へと導き、更新するような作品は見たことがなかった気がする。
撮影、編集、そしてユーモアによって独特なテンポを作りながら、至極真っ当な作りで(逆に)驚いた。今までの彼のフィルモグラフィーと比べたときに目に見える形での、性や暴力はかなり控え目ではある。が、それ故にかえって描かないことで際立つものがあった。本作の放つ男と女のなんとも言えない官能さみたいなものも。普段なら重要なところで足枷になることの多いスマホというアイテムをしっかりと組み込み、効果的に使っているのも印象的だった。賢い者は海を好む。

最年少で警部になったエリート刑事の妻はこれまた最年少で原子炉の要職に就いていて、順風満帆な主人公。白か黒かはっきりした世界で生きてきた彼が直面する、霧のかかったグレーの世界。そうした、出会うはずのなかった計算外/不都合な出会いが人生を狂わせていく。
絶対的に弱い立場にある女性、それが外国からやってきた人なら尚の事。何が彼女を"ファムファタール"たらしめるか、決して謎めいたものではなくしっかりとバックボーンやそこに至る過程を描いている。あなたの未解決事件になりたい…"中年の危機"も"クソ男に惹かれてしまう女性"も山頂から突き落とす。狩猟本能"追いかけられるより追いかけたい"男の性(さが)みたいなものもあった。
思惑通りの結末へ。永遠に忘れられない"不在の証明"が、何よりの存在となる瞬間。掌の上で転がされて、残された者の人生はこれを糧にして立ち直せるのだろうか?こんな消え方されたら生涯忘れられるわけがない。消えるヒロインの系譜。

とぽとぽ