「格差社会を過激に風刺。事前情報がないほど楽しめる」逆転のトライアングル 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
格差社会を過激に風刺。事前情報がないほど楽しめる
いやはや、圧巻の2時間27分。スウェーデンのリューベン・オストルンド監督の過去作「フレンチアルプスで起きたこと」や「ザ・スクエア 思いやりの聖域」を観て面白かったと感じた人なら、もう事前情報も予告編もチェックしないまま「逆転のトライアングル」を映画館で観た方がより満足度が高いはず。この作品に限らないが、あらすじの半分から3分の2ぐらいまで前もって教えてしまうのは常々疑問に思っている。本作の3章構成はおおむね起・承・転に合致するが、「転」の筋まで知らされると、それだけ驚きが半減してしまう。
ともあれ、オストルンド監督は、どの作品でも登場人物の当惑や居心地の悪さを観客に体感させるのが実に巧い。富裕層がひどい目にあったりするのを見ると、気の毒だなと思いながらもどこか「いい気味」と思ってしまう自分に気づき、それで自己嫌悪してまた居心地が悪くなるような。
ちなみに原題は「Triangle of Sadness」で、直訳すると「悲しみの三角」になるが、美容用語で「眉間にできる皺」を指すのだとか。男性モデルのオーディションのシーンで眉間と口元がどうのこうのというやり取りがあるし、主人公カップルのカールとヤヤ、それに第3章でからんでくるもう一人を加えた三角関係にもかかっていると解釈できる。もちろん、富と美と力に翻弄される人間の悲哀を描く三幕構成を示唆してもいるだろう。
最後に悲しいトリビアをひとつ。モデルのヤヤ役のチャールビ・ディーン(彼女自身もモデル出身)は以前交通事故の怪我で脾臓を摘出していて、腹部を露出している場面ではその手術痕を確認できる。脾臓がないと感染症のリスクが高まるそうで、昨年8月、細菌性敗血症により32歳で亡くなり、「逆転のトライアングル」が遺作になってしまった。本作のパルムドール受賞にも間違いなく貢献し、映画界での将来が大いに期待されていたのに、残念でならない。