「差別に苦しむ人々、少年達の尊い友情」アルマゲドン・タイム ある日々の肖像 あっさり醤油ラーメンが好きさんの映画レビュー(感想・評価)
差別に苦しむ人々、少年達の尊い友情
ジェームズ・グレイ監督の自伝的作品とされるこの映画は差別に苦しむ人達で溢れています。
地下鉄の車内で「将来NASAに入りたい」と友達のポール(主人公)に夢を語っていたところ、それを聞いていた見ず知らずの黒人青年から「黒人なんか裏口からだって無理だ」と否定されショックを受けてしまう黒人少年・ジョニー。
若かりし頃の大学入試の際に、面接官から「ユダヤ人が何しに来た」と言わんばかりに嘲笑されたポールの祖父・アーロン。
自分の父親の職業が配管工だと知れたとたんにアーロン以外の妻の親族に見下すような態度をとられたポールの父・アーヴィング。
物語は1980年のアメリカを描いていますが、「あなたがアイビー・リーグに合格したのは黒人だから」と同級生にねたまれ、「確かに自分と同じ位の成績のアジア系の子達は受からなかった。」と悩む公立高校の女子学生にフォーカスしたドキュメンタリーや、「アイビー・リーグが黒人を優先的に入学させているのは憲法違反」と判断した連邦最高裁判所のニュースを見ると、差別は今も形を変えてアメリカの人々を苦しめているのだと痛感します。
幸いにも差別に直面することはあまりないと思っていたら一つ思い当たりました。テレビのドキュメンタリー番組で耳にした「ラーメン嫌いな日本人なんていないんじゃないの」という中年男性の発言。多数派による同調圧力と感じました。
悪気はないのでしょうが、ラーメンの屋台というまず反対意見が出そうもない安全地帯での、恐らくごく少数の意見しか知らないうえでの発言であり、私は卑怯で小心者で軽率で思慮深さに欠けますと言っているに等しく、同じラーメン好きとして聞いていて恥ずかしくなります。
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転校先の私立の学校で同級生があからさまに黒人を見下しているとポールに打ち明けられたアーロンは、恐らく黒人が一人もいないであろうその学校で、それがどんなに難しいことかを承知のうえで「高潔であれ」と諭します。
新学年の初日に新しい担任の似顔絵を描いてこっぴどく怒られる、祖父母を招いたパーティのためにお母さんが腕によりをかけて作った料理が食べきれないほどあるのにチャーハンや餃子のデリバリーを勝手に頼んでしまう、学校のトイレで友達とドラッグをキメるなど大暴れのポールですが、ジョニーが一緒に出かける約束のためにポールの転校先の学校を訪れた際に、(周りの目を気にして)ちゃんと話せなくてごめんと謝ったり、学校のパソコンを二人で盗んだのは自分の発案だと正直に話したり、おじいちゃんの教えの通りに友達を思いやり高潔に生きています。
それに対して「この子は関係ない。自分が一人でやった」と話すジョニーに「どうして・・」と戸惑うポール。
自らの現状への不満の理由を「親ガチャ間違えた」で済ませてしまう日本の若者には、自分に不利になることを承知で互いに友達を思いやるこの二人のような尊い行動は到底期待できないのではないかと考えてしまいます。勿論杞憂であることを望みはしますが・・・。