「観客に対する信頼」トリとロキタ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
観客に対する信頼
ダルデンヌ兄弟の映画は、いつも心が痛くなる。しかし、心が痛くなる現実があるのだからこの兄弟監督はカメラを向けないわけにはいかないと思っているのだろ。私たちもきちんと向き合う必要があるし、向き合ってくれると観客を信頼しているからこういう映画を作れるのだ。本作では、難民の少年少女が親元を離れてヨーロッパへ渡らざるをえない現実が背景にあり、なおかつ、そんな彼らが制度の欠陥た差別などで苦境に陥る姿を突き付けている。
トリとロキタは、姉弟と偽ってビザを申請するが、認められない。しかし、二人の絆は本物だ。ビザがないので非合法な仕事をする以外に生活する術がない。姉のロキタは故郷に仕送りに加えて、渡航ブローカーに金を払わねばならず、危険な麻薬ビジネスに利用される。救いのない現実が容赦なく見せつけられるが、これがこの社会の現実だ。
トリとロキタ役の2人の少年少女の芝居は素晴らしい。ダルデンヌ兄弟はティーンエイジャーを描くのが本当に上手いと思う。「イゴールの約束」でも不法移民の物語を描いていた彼らだけど、その眼差しは一貫して変わらない。本当に芯のある作家だと思う。
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