「クローネンバーグが深化と洗練を経て、久々のオリジナル脚本で悪夢的ボディホラーに原点回帰」クライムズ・オブ・ザ・フューチャー 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
クローネンバーグが深化と洗練を経て、久々のオリジナル脚本で悪夢的ボディホラーに原点回帰
しばしば“鬼才”と称されるデヴィッド・クローネンバーグ監督は、自ら脚本も手がけた1980年代の「スキャナーズ」「ヴィデオドローム」およびその前後の作品で、暴力や事故による身体の損壊、自発的な人体改造、グロテスクなクリーチャー、奇妙な生き物のような形状の道具や装置などを好んで描き、ボディ・ホラーというサブジャンルの確立に大きく貢献した。83年の「デッドゾーン」以降は小説等の映画化(「戦慄の絆」「裸のランチ」「クラッシュ」)やリメイク(「ザ・フライ 」)が増え、オリジナル脚本作としては99年の「イグジステンズ」が最後に。21世紀に入ってからは原作ものが続き、テーマとしても暴力や狂気を通じて人間の精神の深淵に迫ろうとする傾向が強まり、それが作り手としての深化であり洗練であるにせよ、なにやら変態趣味全開の悪ガキが上品な大人になってしまったような寂しさを感じていたのも正直なところ。
だが実に20数年の時を経て、クローネンバーグ監督がまたオリジナル脚本をたずさえボディ・ホラーの世界に帰ってきた。「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」のタイトルが示すように、時代は未来。人類から痛覚と感染症がなくなり、タトゥーや人体改造がカジュアルになった。体内で新たな臓器が生み出される病を持つアーティストのソール(ヴィゴ・モーテンセン)は、タトゥーを施した臓器を摘出するショーで人気に。政府は新臓器の生成が行き過ぎた進化だとみなし、臓器登録所という影の部署を通じて監視している。そうした人体の進化に対する監視や規制を嫌う反政府組織の男がソールに接触してくるが、ソールには“裏の顔”があった。
監督のファンなら、コンピューターと触手型インターフェースを備えるエイリアンの繭(まゆ)のようなポッド型ベッドや、人骨を大型化して組み合わせたような食事支援チェア、巨大な甲虫とその体内を思わせる解剖マシンなど、グロテスクだが異様な魅力を放つ造形物の数々にクローネンバーグ特有のフェティシズムを再確認できて歓喜するはず。マシンを使った開腹手術や遺体の解剖などのシーンがリアルに描写されるので、万人受けする映画でないのは確かだが(初上映された昨年のカンヌでは途中退席者が続出したという)、ずっと悪い夢を見続けているような感覚を好むマニアックな向きには待望の御馳走だろう。
21世紀以降のクローネンバーグ作品には興味が湧かず観ていないのですが、ようやく原点回帰といわんぱかりの作品が登場し、2年くらい前から楽しみにしておりました。
これから鑑賞スロットルるので楽しみです😊
最近だと息子の作った「ポゼッサー」も親譲りの完成度の高い作品だったので、今後はデヴィッドクローネンバーグの初期作品の作風を継承していっていただきたいなとしみじみ思いました!