「主人公・エヴリンと、マルチバースの描写が好みに合うか否かで感想が変わる。」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公・エヴリンと、マルチバースの描写が好みに合うか否かで感想が変わる。
◯作品全体
主人公・エヴリンのバースは他のバースと違って、あらゆることで失敗をしてきたのだという。そのバースにいるエヴリンが他のバースのエヴリンの力を使って、最終的に愛の力を持って宇宙の危機と家族の危機を救う。
各バースと繋がるときの奇抜な演出は面白かったけれど、そこが一番の見せ場になってしまっていて、家族との和解や、エヴリン自身の物語は二の次になっていた印象があった。
そもそもの話になってしまうけれど、あらゆることで失敗してしまった人物が夫を持ち、子を持ち、人並みに生活していることがすごく疑問だ。エヴリンの他のバースと比較して一番失敗している、としても、幾重にも別れたマルチバースの世界でこれがワースト、というのは正直説得力がない。なにもない人物がなにかを得て、最終的には愛を持って道を拓く…というプロットは凄く好きな部類だけど、出発の地点がイマイチだと終盤のカタルシスも少ない。
エヴリンのキャラクターとしての魅力もあまり感じなかった。ラストを愛の強さを軸にする以上、序盤はそうでない人物として描いているのだろうけど、自分中心に世界を回すことに固執してる感じに嫌悪感を抱く。嫌悪感を抱くということは表現としてリアルだからなのかもしれなけれど、作品を見ていて「上向きの世界に進んでほしいな」と思えないのは少しつらい。個人的には客に向かって中国語で「鼻の大きい人」と声をかけるのがなんか凄い最悪だった。コメディっぽい演出でやってるつもりなんだろうけど、言葉を知らない人間を下に見るような感じが嫌だったな。生活の中でエヴリン自身もそういう目にあってきたのだろうから、マルチバースの世界のエヴリンよりも主人公・エヴリンが前へ進むことを後押ししたくなる深掘りが欲しかった。
アクションのアイデアは凄く面白かった。マルチバースからいろんな能力を手に入れていって、どんどん強くなる。いろんな自分が一致団結して戦っているような見せ方が良い。ただ、それが単純な強さの基準になっていた時間が凄く短かかったのが残念。
他のバースの描写が悪い意味で癖が強い。手がソーセージになってる世界とか、軽く触れる程度であればフフッと笑えるけれど、そこで同性愛も盛り込んだドラマとかやられても、どういう顔して見てればいいのか困惑する。性表現っぽいものをケチャップとマスタードでやってたのが最悪だった。マルチバースのジョイの格好とか強化された小指の表現とか、なんかちょっと品がないというか、気色悪いというか。それが作品の色味として使われてるならまだしも、ちょっと一発芸っぽい感じだった。逆に石だけの世界は作品全体に漂う下品さが削ぎ落とされていて、とても良かった。
今いる世界に憎悪しているエヴリンが、ウェイモンドやジョイ、そして別のバースの自分と向き合うことで世界を愛し始める。その場面はもちろんあったけれど、もう少しそのドラマを見ることができたら、エヴリンというキャラクターも、マルチバースの描写ももっと好きになっていたのかもしれない…という別のバースの『エブエブ』を考えてしまった。
◯カメラワークとか
・この作品がアカデミー賞編集賞を受賞した理由としてマルチバースの世界がそれぞれのドラマとして独立していて、それがカットバックとかで繋がれているからだと思うんだけど、別に整理されているわけでもないし、それぞれの世界が独立してる以上、どう繋ごうが似たような印象になるんじゃないかなあと思ってしまった。
◯その他
・ビッグノーズの人が犬を振り回して戦ってたけど、飛ばされた犬主観のカメラワークが『空飛ぶギロチン』っぽい。「飛ばすべきものでないものが飛ぶ」という意味でもカンフー映画という意味でもパロディっぽい気がする。
・この作品にアカデミー賞が7部門の賞を与えたことは、今の時代に生きてれば理由がわかるけど、後々振り返ると頭にハテナが浮かぶんじゃないかなあと思う。