「この映画は実写版少年バトル漫画です」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 映画太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画は実写版少年バトル漫画です
世の中に少年バトル漫画は数あれど、毎回色んな敵が現れて、やっつけると更なる強敵が現れる。毎回敵にボコボコにされ、毎回絶対絶命である。敵にやられて仲間はボロボロ、世界中の誰もがもうダメだと思ったその時、主人公はただ1人「まだだ!」と言って立ち上がる。めちゃ熱い展開な訳だが、どうして主人公は立ち上がれるのか。なぜ1人諦めないのか。私は少年バトル漫画のテーマはニヒリズムとの闘いだと考えている。その意味でこのテーマをほぼバトルのみで表現し切った、鬼滅の無限列車編は素晴らしいのだが、それは置いといて、突き詰めて考えると虚無(ニヒリズム)に理屈で太刀打ちできるわけがないのだ。世の中全てに価値が無いというなら、闘う価値も理由もない。それならどうして主人公は立ち上がれるのか。
前置きが長くなったが、本作ではマルチバースの中であらゆる可能性のおばちゃん(エヴリン)が無数に登場する。そして何かみんなキラキラしている。主人公のおばちゃんはその中で1番しょうもない人なのだが、つまりあらゆる選択肢の中から1番しょーもない選択をしてきた人間なのだ。これだけでもかなりの絶望なのだが、実は夢みてきたあらゆる選択肢の先にある未来、マルチバース全てが自分の世界と同じ、しょーーもない無価値な世界だと知ることになる。これは虚無る。虚無らざるおえない。では、どうやっておばちゃんは虚無と闘うのか。これは個人的な考えなのだが少年バトル漫画の主人公も本作のエヴリンも、果てはニーチェの永遠回帰まで、虚無に立ち向かう方法は一つ「根性」なのだ。結局根性論かーいと言われそうだが、人間全部ダメになって何も無くなった時、最後の最後は意地が残るのではないだろうか。この映画の脚本の優れているところはとことん理詰めで物語を組み立てて最後に理屈抜きの熱い展開で解決しているところ。さらに母と娘の関係が主人公本意にならない深みを作品に与えている。