「シン・エヴァぶりの号泣」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 井出さんの映画レビュー(感想・評価)
シン・エヴァぶりの号泣
ロケは少なくて低予算なのだろうに、壮大なテーマを扱っている。
役者さんの稼働率もえぐい。たぶんメイクしなくても出てた疲労感なんじゃないか。
物語は明快。ノーラン映画じゃあるまいし。
アクションシーンのB級なサブカル感も楽しめる。
変なことをしたらマルチバースの自分を召喚できるという設定も、なんだか真似したくなる。
ただ、それぞれの世界がなぜそうなのか、とか、空間は飛べるなら時間も関係ないのでは、とか気になることはあった。なんでソーセージの指の人類が勝ったんだろう。岩の世界は岩であることの魅力があるのに。でも映画の主題をそこまで損ねるものではないと思った。
対立構図は、全ての空間と物質をベーグルに還元しようとする側と、それを防ごうとする側。
メタバース、還元派は、全ての空間や物質を自在に操れる。それを全てベーグルに還元しようとする。
人間であること、私であることの必然性。いま苦しい。きつい。傷つけ合う。この人生に何の意味があるのか。もっと別の人生が。
nothing matters.
重要なものは何もない。
それに対して、苦しくても、傷つけ合っても、うまくいかなくても、それでも一緒にいたい。全てがいままさにここにある。宇宙からすれば一瞬のことでも、世界が無数に広がっていても、必然性と偶然性を受け入れてそこで生きたい。傷つけられても諦めたくない。
nothing matters.
何も大した問題じゃない。僕らは今ここで、一緒にいられる。
結論として新しいと思ったのは、欲張らずに今目の前にいる1人だけでも、その人と幸せであろうとすることを選んだこと。
それはパラレルがどうでもいいってわけではなくて、パラレルの自分を信じて応援するという選択でもある。
全てを何にも還元しないことを選択する。目の前にある人や物、そして自分自身を、ほかの何にも変え難いものであると考える。
これは綺麗事でもニヒルでもなく、僕らのリアルだなと思う。映画は週末にそういう当たり前のことを思い出させてくれる。だから好きなんだよな。
メッセージ、スパイダーマン、マトリックス、千年女優などと比較してみたい。