「人には常に、無限の可能性があるという現代のファンタジー。」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス Y.タッカーさんの映画レビュー(感想・評価)
人には常に、無限の可能性があるという現代のファンタジー。
人生とは選択の連続によって形成されるもので、主人公のエブリンはその選択の末、八方塞がりになっているのだが、その彼女がしてきた無数の選択の向こう側にある無限のマルチユニバースに触れてもなお、今自分のいるユニバースに向き合えるのか?がこの作品のテーマ。
最終的にエブリンは自分の中にあった可能性を様々に経験してもなお、このどん底の八方塞がりで生きて行かねばならない。自分の過去にした選択を後悔したとしても、その選択をしたのは誰でもない自分であり、そして生きていく限りはその先も無数の選択をし続けなければならないからだ。でも言い換えればその先にも同様に無限の可能性が常にあるという事。この中々に哲学的なテーマを、マルチユニバースというカオティックな世界観で目まぐるしく見せていくのがとても新鮮で、現代のファンタジーとでも言おうか。ただ、一見アクションあり、笑いありの娯楽作品のような親しみやすい成りをしているが、この作品独自のユニバースの野放図な概念やルールが、一筋縄ではいかない難解な後味にしている。正直いえばそのラストまで緩むことのない怒涛の展開に感情が追い付かず、エンドタイトル中もずっと頭の中は、混乱したままだったのだが…。
そのカオティックな作品の中で、主人公エブリン役のミシェル・ヨーは、繊細で情感豊かな演技を見せ、さらには衰えぬアクション演技もしっかりと見せ、この難しい作品のエモーショナルな軸となれば、ステファニー・スーが自身のアイデンティティーを母に容認されず苦悩する娘役と、ユニバースを消し去ろうとする悪役とをシームレスに演じ、多彩な表現力を見せる。この2人の演技が本作の白眉だが、80年代スピルバーグ作品で活躍した子役キー・ホイ・クワンの復帰も嬉しく、優男の夫役で味わい深い印象を残している。