「シュールなマルチバースの冒険が内包する普遍的なメッセージ」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
シュールなマルチバースの冒険が内包する普遍的なメッセージ
「あの時違う方を選んでいたら今どうなっていたのかな」という空想が脳裏をよぎったことは、誰しもあるのではないだろうか。単なる思考の遊びか、または痛切な後悔と共になのか、漠然と現在の人生に自信が持てないゆえの気の迷いか、それは人それぞれ。
本作では中年のそんな空想を映像化……どころか、マルチバースには人間の生まれなかった世界も登場し、多元宇宙を救うための闘いが繰り広げられる……主にカンフーで。
しがないクリーニング屋を夫と経営する中年女性のエブリン。ある日突然「別の宇宙のウェイモンド」からのコンタクトを受け、さまざまなマルチバースの自分と接触しては能力を取り込みつつ、宇宙規模の巨悪(娘のジョイ)と対峙する。
マルチバースの他のエブリンたちがメインで動き出すことはないし、おのおのどういう人生を送っているかはあまり深堀りされない。突拍子もない行動をトリガーにマルチバースにアクセスし、並行世界の”自分”の能力(肺活量とかカンフーとか)をゲットして、メイン(物語における)の世界で闘う。
そして、ブラックベーグルの虚無に吸い込まれつつあった娘を救うのだ。
(娘が宇宙のラスボスで虚無に吸い込まれるというのも、反抗期の親子関係などを彷彿させる、なかなか含蓄のある設定)
家族愛やさまざまなギャップ(世代間、ジェンダー、庶民と体制、etc.)の存在と相互理解の必要性といった、俯瞰すればオーソドックスと言っていいテーマを内包したストーリーなのだが、見ている間はマルチバース間の目まぐるしい行き来に目と心を持っていかれる。そのマルチバースのバリエーションがエブリンの「選ばなかった選択肢」だけではなく、意表をつくというかシュールというか、よく分からないものが結構混じっているのだ。
手指がソーセージの世界とか、頭にアライグマを乗せたライバルシェフとか、ポメラニアンをリードでぶんぶん振り回す敵とか、しまいには石とか(石からは何か能力をもらっていたのか、その能力は何だったのかよく分からなかった)。
宇宙の巨悪状態のジョイが序盤で振り回す棒状の武器がもろアレの形とか(そういう用途に使ってなければ、ぼかしもレーティングもなしでいいのか……)、マルチバースへのトリガーとしてお尻にいろいろぶっ差すキャラとか、エブリンが派手にリバースするシーンとかもあったが、最近そういうお下品表現を含む映画が多かったので何だか慣れてきている自分がいた。
それにしても、ミシェル・ヨーはやはり素晴らしい。疲れ切ったクリーニング屋のおばさんも、きらびやかなドレスをまとったゴージャスなスターも同じレベルでさまになっている。カンフーアクションもばっちり。コメディエンヌとしての感覚も冴えている。
その上このキャリアながら奇天烈な格好も厭わない。終盤でさまざまなマルチバースのエブリンの姿が目まぐるしいスピードで流されて、鑑賞中にはひとつひとつを視認できなかったが、パンフレット(本棚で保管しにくい立体目玉付き)に84パターンの写真が載っていた。いやダニエルズ、よくこんなのミシェル・ヨーに頼んだな。
ジェイミー・リー・カーティス、あんな体型だっけ?ボディスーツかな?と思って調べたら、なんとガチであの体型だそうで驚愕した。本人いわく、これまではこの「本当の体型」を隠してきたとのこと。それを本作で解放することに決めたのだそうだ。
A24魂が息づく、表現の癖強めな本作が賞レースを独走している理由はふたつあるのではないか。
ひとつは、意地悪な見方になるが審査員受けのいい要素が多いこと。キー・ホイ・クァンの大復活という物語をはじめ随所に散りばめられたアジア系要素、LGBT、家族愛。ジェイミー・リー・カーティスが晒したありのままの体型は、アンチルッキズム的だ。
年齢の壁を壊しているとも言える。取り柄のない平凡な人間が超常的な理屈で突然無双、なんて話の主人公は、映画ではだいたい若者が相場。
もうひとつは、自分の人生や今いる場所、目の前の誰かを肯定し、愛してみようという、あたたかくて希望を感じるメッセージに帰着することだ。
ナンセンスでぶっ飛んだ冒険譚の後に残る童話「青い鳥」のような余韻。それがこの一見エッジィな作品に、多くの人に共感され得る普遍性をもたらしている。
コメントありがとうございました😊。広告うまいですし、貴殿のレビューでアカデミー戦略の巧みさに感嘆しました。ある意味いいセンスの映画ですね。おっしゃるとおり。ただ、あくまで娯楽として観にきている観客的には、シロウト客的には明確に失敗作と思いました。アカデミー取るかもしれませんが、興行的には大変厳しい作品かと思いました。大衆の支持的にはムリ目の芸術作品としてはおっしゃるように秀作です。ただ映画に深い造詣の方意外にはキツイような気がしました。😊
真逆な評価してるのにあれなんですが、このレビューが、素晴らしいので、思わず共感クリックしちゃいました。
このレビューに見合う映画になるべく、別の宇宙に行って出直してこい❗️って言いたくなりました。
うん?でも誰に言ったらいいんだろう😂
変なコメントですみません。
無視していただいて結構です🙏🏻