「リンクレイターの体験と空想の思い出」アポロ10号 1/2 宇宙時代のアドベンチャー 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0リンクレイターの体験と空想の思い出

2022年12月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

リチャード・リンクレイターによるロトスコープ・アニメーション。アポロ11号の月面着陸に湧いた時代に少年時代を過ごしたリンクレイター自身の思い出を元にしているらしい。一種の伝記映画だが、主人公の少年がアポロ11号の前、アポロ10号 1/2のパイロットに選ばれて月に先に降りていたという空想が交じる。空想と現実が入り交じるリンクレイターのアニメーションの系譜に連なる作品で、ロトスコープが効果的に用いられている。
宇宙開発に対しては、両義的な態度を見せている。それが人類の壮大な夢で少年が憧れるものである一方、政治的なものであった点も描かれる。デイミアン・チャゼルの『ファースト・マン』ほど辛辣ではないが、宇宙開発競争が人に夢を与えていた側面も否定できない。たしかに、あの時代国民は宇宙開発に熱狂したし、そこに夢を見た人も大勢いたはずだ。
リンクレイターの過去のアニメーション作品が苦手な人にもこれは取っ付き安くて楽しると思う。難解さはなく素直に少年の憧憬とノスタルジーを表現している作品で、さわやかな感動を与えてくれる。

杉本穂高