劇場公開日 2023年3月24日

「テーマ共感。カタルシス解放しない問題が問題」ロストケア コバヤシマルさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5テーマ共感。カタルシス解放しない問題が問題

2024年8月25日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

単純

内容は、10年前の原作同名の推理ミステリー小説の作品から映画化。この国の介護問題と制度の問題や尊厳死について生々しすぎる程に、其々の人々の生活に光を当てた作品。
 印象的な台詞は、『僕は父を殺しました。父殺しを僕が見逃されたのは、きっとやるべき事がまだあるからだと思いました。』法廷で裁判官に向かって、シバ役の松山ケンイチが話す言葉。キラリと光る殺人鬼としての一面が短絡的に垣間見える所が面白かった。手段が目的となる穴に落ちていく様が上手く表現されていたと思います。
 印象的な場面は、やはり松山ケンイチの父役の柄本明さんの感情演技でしょう。半身不随と痴呆症の入り混じった演技は、おしゃべりな所が不自然ですが一見の価値ありの怖いくらいの凄い演技です。
 印象的な立場は、男女ダブル主演の演技対決。検察官の長澤まさみと殺人鬼の松山ケンイチとの家族に対する立場の違いに焦点が当てられている所です。演技対決は手に汗握る素晴らしい間合いの取り合いとなってます。残念なのは、結果2人は共感するも全体的な問題の解決になっておらず、2人の関係のみのカタルシスの解放になっている所です。2人の演技力対決に終始する物語がなんとも見易かったですが根本的な問題の解決につながらず残念でした。
 全体的に介護疲れで尊厳死や生活に対して国家の許可を待てない人達の対応策がステレオタイプの様に描かれていた様に感じます。そこに自分の人生が投影されず自由に選択肢を選べない問題のみを掘り下げた短絡的な所より、もっと深く潜ってほしいと感じました。
 介護職を辞めて風俗や水商売に鞍替えするのは常識的な事として認識されていますが化粧をすると全然違う顔と行動になる演技力に目を疑い感心しました。まるで別人格。
 それにしても人殺しと法廷で罵られる時の松山ケンイチの唇の演技は上手かった偽善者と殺人鬼のアンビバレンツを見事なものでした。
 終始、観ていて気持ちのいい話ではないので、観る人にもよりますが、夜に見る事をお勧めしたいです。昼日中に観るものではありません。気分が滅入りそうになるはずです。

コバヤシマル