「穴の中にいる人間」ロストケア さっこさんの映画レビュー(感想・評価)
穴の中にいる人間
すごい映画だと思いました。
すべての役者さんの演技が、本当にその登場人物が現実にそこに、いるかのように感じました。
柄本明さんが「ころしてくれ」と訴えるシーン、
松山ケンイチさんがボロボロ涙を零すシーン、
自分もぼろぼろ泣いてしまいました。
映画の登場人物、何人もの体験が、他人事には思えませんでした。
数年前に亡くなった父が寝たきりで、家族で在宅介護をしていました。
主に介護していたのは70代の母で、
日中だけヘルパーさんがきてくれて、
わたしは平日は仕事で、朝と夕だけおむつ替えを手伝い、父がごはんを食べる介助をしていました。
父は身長が大きくて半身に麻痺があり、大人ふたりがかりでないと、おむつ交換ができませんでした。
女ふたりでは大変でした。体がすごく重たかった。
おむつを替えている途中にまた便や尿がでたり、寝具を汚したり服にひっつくこともありました。
のどで飲み込む&噛む力も弱ってきて、ごはんを食べるのもすごくスローペースで、
認知症があったので会話や意思の疎通もだんだん出来なくなっていきました。
母は1日中、うごきっぱなしで、私なんかよりもっともっと大変でした…
介護経験のある知人や友人にきくと、それぞれのおうちごとに、困り事や事情はぜんぜん違うようで、うちの家の話がすべてのおうちに当てはまるとは限らないと思います。
以前、「月」という映画を観ました。
障害者施設で入所者が職員にころされるというシーンが出てきます。
わたしは精神科に長期入院をしたことがあります。
精神障害を抱えて生きている自分としては、
映画「月」で入所者が殺されるシーン、
まるで自分が犯人に襲われるかのようで恐怖を感じました。
そしてこの「ロストケア」の映画では犯人が
「この社会には穴が開いている。落ちたらはい上がれない」
と語るシーンがでてきました。
わたしは「穴」に落ちたほうです。
むしろ最初から穴の中で育った落ちこぼれかもしれません。
10代で不登校になり、ひきこもり、何度かアルバイトをしてみるもしんどくて続けられず、またひきこもって、精神を病んで自殺未遂をしました。
精神科に入院し、退院したあとデイケアに通ってリハビリし、いまは、障害者を雇用してくれるところで働いています。
何年もかかったけど、昼夜逆転じゃなくなり生活リズムも整って、ひとりで電車に乗ったり外出をしたり、他人と最低限の会話はでき、家事や仕事の作業もできるようになりました。
わたしの知識は浅いのですが、歴史上、戦時中、ある国でたくさんの人が精神障害者であるのを理由に抹殺されたり、
日本でも、精神障害者は家の一室に閉じ込めるという時代があったとききました。
母のいなかにあった精神科病院は
「一度入ったら、一生、二度と出てこられない」
所だと言われていたそうです。
何十年も前、親戚のおじさんも精神科に入院していましたが、医師や看護師の対応も環境も、今の時代より、
わたしが経験した入院生活より、全然ひどかったそうです。
国の文化や、世間の風潮は、かんたんには変わらないけど、
穴ぼこに落ちた一人一人が、救われる社会であってほしいです。
…むしろ、色んな穴が、底が浅くというか少なくなっていって欲しい…
「ロストケア」
主要登場人物のひとたちのエピソードが、たくさん胸に刺さりました。