「白と黒に象徴される青春ドラマ」線は、僕を描く 悶さんの映画レビュー(感想・評価)
白と黒に象徴される青春ドラマ
【鑑賞のきっかけ】
原作小説は、未読ですが、「水墨画」を通しての人間模様という、これまで目にしたことない内容の映画ということに興味を引かれての鑑賞でした。
【率直な感想】
<白と黒の二項対立>
主人公の大学生・青山霜介は、水墨画の巨匠・篠田湖山に目をかけられて、内弟子となり、修行することになります。
初めて湖山の家を訪ねた時、霜介は、水墨画を描く湖山の孫娘・千瑛の姿を目にし、これが初対面となるのですが、このシーンで、二人の服装に着目しました。
それは、霜介は、「白」のシャツを着ており、千瑛は、「黒」のドレスであるということ。
その後のシーンでも、柄物を重ね着したり、すべてではありませんが、基本的に、霜介は、「白」基調で、千瑛は、「黒」基調の服装です。
水墨画は、白い紙に黒い墨で絵を描きます。
二人が、水墨画の「白と黒」を表現している存在であると考えられます。
恐らく、霜介は、まだ水墨画を習い始めたばかりで、筆は握っていても、描く主体にはなりきっていない。だから、描かれる側の「白」で表現されている。
一方、千瑛は、まだ水墨画家として花開いていないけれど、十分に実力はつけており、描く主体になっている。だから、筆を持って描く側の「黒」で表現されている。
このように考えつつ、鑑賞を進めました。
映画は、中盤にひとつの見せ場を作るパターンがありますが、本作品でもそれを踏襲しています。
この見せ場で、面白いことに、「白シャツ」が重要なアイテムとして登場します。
なかなか面白い演出だな、と感じました。
その後、二人の「白」と「黒」がどうなっていくかは、ネタバレとなるのでこの辺りで留めておきますが、二人の心情や水墨画への向き合い方の変化によって、次第に服装にも変化が生じていきます。
<黒の濃淡>
水墨画の大きな特徴は、墨の黒色には、濃淡があって、そこから、描かれる対象物に立体感が生まれ、黒という単色でありながら、多くの人を惹きつける画法となっていると考えています。
この「黒の濃淡」は、「劇場映画」の撮影技術にも取り入れられているようです。
水墨画のように、単純な黒一色で表現しているのではなく、「濃淡」を描き出しています。
このため、例えば、バットマンの劇場映画では、夜のシーンに、黒いコスチュームのバットマンが現われたりしますが、バットマンが、周りの暗さに溶け込んだりせず、きちんとその動きが分かるのも、この技法のおかげです。
私は、絵画や映画の素人なので、詳しいことは分かりませんが、この東洋発祥の「水墨画」と、西洋発祥の「映画」の両方に「黒の濃淡」という技法が取り入れられていることは大変に興味深く感じています。
【全体評価】
「青春ドラマ」としては、霜介と千瑛の二人は割と淡々としているので、若者のはつらつとしたイメージを期待すると、ちょっと物足りなく感じる方もいらっしゃるかと思います。
私としては、「水墨画」の実力をつけていく中で、二人が成長していく様がこの映画の見どころと感じており、後味の良い作品でしたので、高評価させていただきます。
お久し振りです。
お元気ですか。
緻密で素晴らしいレビューですね。
本作、ちはやふるの様な、知的格闘技ではなく、
己との闘いでしたので、派手さはなく、物足りなさはありましたが、
水墨画にフォーカスした、とてもクリーンな作品でした。
なんといっても、水墨画の描画シーンは迫力満点でした。
描き手の想いを水墨画に注ぎ込んでいる感があり感動的でした。
水墨画って生きているんだなと感じました。
是非、続編を観たいです。
では、また共感作で。
-以上-