「モノトーンの世界のパッション」線は、僕を描く bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
モノトーンの世界のパッション
2020年本屋大賞3位となった、砥上裕將氏さんの原作は、既読。コミックにもなって幅広く知られ、愛されてきた作品。但し、映画の実写化となると、美術的にはマイナーのイメージのある水墨画をモチーフに、どのようにスクリーンに映し撮るのか、なかなか難しいと思っていた。
そこを、『ちはやふる』でもメガホンを撮った小泉徳宏監督が、水墨画のモノトーンの世界観の中に秘めた熱いパッションを引き出す描写と、若者の絵師としと、そして人としての成長を描いた感動的な作品として仕上げていた。
モノトーンで、穏やかで落ち着いたイメージの水墨画の世界。しかし、実は研ぎ澄まされた感性と想像力を短時間の中で、画紙に爆発させる描写力が求められる。絵師の熱き情熱がそのまま作品に現れる事が伝わってくる厳しさがある。絵師が、常に描き続け、失敗は許されない緊迫感の中で、白と黒の世界を創り上げるスピード感や迫力に息をのむ。
家族を水害で失い、天涯孤独の青山霜介。そんな霜介が、アルバイト先で水墨画に魅了され、水墨画の大家である篠田湖山の勧めもあり、その世界の門を叩くことになる。持って生まれた感性と努力で、家族を失ってから初めて、自分を前進させる世界と出会うことができた霜介。そして、同じく湖山の弟子で、美しい孫娘となる篠田千瑛と、若きライバルとして切磋琢磨し、水墨画の世界へとのめり込んでいく。
様々な挫折や苦悩を経験する中で、水墨画と向き合い、優しく見守ってくれる家族の様な人々とも出会いながら、自分なりの未来を見つけ歩み出した霜介。そして、特別な感情が生まれ始めた千瑛との青春ストーリーにも、エールを送りたくなる。
主演の横浜流星は、この役を通して、落ち着きや穏やかさがよく表れていて、大人の役者として、一歩成長した姿を見せていた。また、千瑛役の清原果那は、今年は朝ドラから探偵・翡翠のドラマ、映画でも『護られなかった者達へ』など、大ブレイク。このまま大きく成長していって欲しい女優だ。そして、この若き2人を引き立てる脇役となっているのが、三浦友和と江口洋介のいぶし銀なベテランの演技。
悪人が一人も出てこない、爽やかな青春ストーリーの中に、静かな熱き情熱が伝わってくる作品だ。