「いまどきの物語はこうなのか」線は、僕を描く Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
いまどきの物語はこうなのか
水墨画の有名な先生がお寺で絵を描くから、その設営のバイトに行って描くとこ観てたら『僕の弟子になりませんか』って言われるっていう意表を突くオープニングなのね。
そこから、水墨画を通じて、不幸なできごとに傷ついた主人公が再生していくって話なの。
面白いんだけど、ほとんど主人公を追い詰めないんだよね。
横浜流星が清原果耶と出会うシーンは、物語のお約束としては、最悪の出会いをするんだよね。そこから始まって、少しずつ仲良くなっていくっていう。
でも、普通に出会うの。バチバチやり合うこともない。
それで横浜流星は、弟子への誘いを『僕なんか』って感じで断るんだけど、強引に『じゃあ、水墨画教室の生徒ってことで』と水墨画を描かされて、しかし、だんだんのめり込んでいくという。
すごく都合の良い展開なんだよね。主人公が苦労して何かを乗り越えるというのは、ほぼなくて。
ただ、強烈な事情は背負っていて、家族が不幸な亡くなり方をしてるの。それで、最後の別れ方が喧嘩して別れちゃったし、妹は最後に電話してきたのに出てあげられなかったっていう。
「そりゃ、辛いよね」という、ここの共感だけで話ができてる。
そこを乗り越えたのはなんでなのかというのは、極めて曖昧なんだけど、みんな「乗り越えて欲しい」と思って観てるから、乗り越えると心が動くんだよね。
「主人公、どうなるんだろう?」とジリジリさせる展開はほとんどなくて、一本道を突き進んでいって爽快な感じ。いまは、こういう物語がいいのかなと思いました。
そして、この映画が面白いのは、演出のうまさだね。
オープニングは涙を浮かべている横浜流星のアップなんだけど「わかってる」感があった。観せ方がうまい。
役者さんも、若手は細田佳央太、河合優実をつかい、ベテランには富田靖子を入れてくるっていう「わかってる」感あふれるキャスティングで、企画の勝利だね。