「奥深いホラー」X エックス R41さんの映画レビュー(感想・評価)
奥深いホラー
『X エックス』──ホラーとポルノが交差する場所で
1979年を舞台にした2022年の作品
「マキシーン」の前編であり、あの「ミッドサマー」と同じ映画スタジオA24の作品
名声と富を夢見る若者たちが、田舎の農場でポルノ映画を撮影しようとする。
その行為は、ただの「映画制作」ではない。
それは、時代の価値観に対する挑戦であり、自己実現への渇望であり、そして何よりも「自分らしく生きる」ための手段だった。
この作品は、ホラー映画でありながら、ポルノというジャンルを大胆に取り込んでいる。
なぜこの組み合わせが人を惹きつけるのか。
それは、セックスという人間の根源的欲望が、常に社会によって規制され、抑圧されてきたからだ。
特に第一次世界大戦以降、欲望のあり方は「誰か」によって決められるようになった。
その「誰か」は、宗教であり、国家であり、メディアだった。
物語の舞台は、ベトナム戦争後のアメリカ。
若者たちはヒッピー文化の残り香をまとい、自由と快楽を求める。
一方、農場の老夫婦は、原理主義的キリスト教にすがり、過去の価値観を守ろうとする。
この対立は、単なる世代間の衝突ではない。
それは、「自分らしく生きること」への恐れと嫉妬の物語でもある。
TVという洗脳装置が登場する。
特定の番組が「特殊」なのではない。
問題は、それを「特殊」と見抜けない無知にある。
人は、音声にそそのかされ、思考を停止する。
それは今も昔も変わらない。
主人公マキシーンは、薬物を吸いながら自己暗示をかける。
「私らしくない人生は、受け入れない」
この言葉は、監督が提示する最も強い自己実現のメッセージだ。
誰かが言った「正しさ」ではなく、自分の直感に従うこと。
それが、最も誠実な生き方なのかもしれない。
ロレインとRJの関係も象徴的だ。
ポルノ映画の世界に足を踏み入れたロレインは、名声を夢見た。
だが、その代償は大きかった。
RJは彼女を引き込んだことに葛藤し、後悔する。
若者たちは、夢を追う過程で、何か大切なものを失っていく。
それでも、傷は成長の証であり、代償でもある。
老夫婦の異常性は、アメリカの歴史そのものだ。
戦争、宗教、メディア、そしてプロパガンダ。
人々を思い通りにできないことへの苛立ち。
それが、支配者のジレンマなのかもしれない。
そして、物語は次作『マキシーン』へと続く。
父の存在が明かされ、謎が深まる。
だが、この作品だけに焦点を当てるならば、
それは「自分らしく生きること」の困難さと美しさを描いた、
極めて現代的なホラーであり、ポルノであり、哲学的な寓話なのだ。