「二人の名優だからこそ成立した濃密な心理劇」不都合な理想の夫婦 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
二人の名優だからこそ成立した濃密な心理劇
ショーン・ダーキン監督といえば、エリザベス・オルセン主演の不気味な心理サスペンス「マーサ、あるいはマーシー・メイ」で名を挙げたフィルムメーカーだが、そんな彼が約10年ぶりに放つ新作もまた心理劇だった。ただし、前作のようなカルトや洗脳という目を引く要素はなく、その構造は至って古典的でシンプル。夫婦や親子という”家族の関係性”を用いて不穏な物語を織り上げていく。また一つのポイントは「80年代」にある。好景気に沸く大量消費時代を背景に、天井知らずの野心が欲望のリミッターを崩壊させ、やがてどんどん崖っぷちに追い詰められる主人公。虚勢を張って他者を圧倒する彼も、それから転落して濡れ鼠のようになる彼も、ジュード・ロウが演じるからこそ、そこにはなんとも言えない人間味が香り立つ。対する妻役キャリー・クーンの存在感も底知れない。観る者を選ぶ作品ではあるものの、舞台劇のような演者の濃密なやりとりを楽しみたい。
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