「綱渡りの厨房。」ボイリング・ポイント 沸騰 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
綱渡りの厨房。
客のどんな無理難題な注文もプロシェフたちの華麗な捌きでしのいでゆくレストランの一夜をドキュメンタリータッチで描いた作品かと思いきや、意外にも主人公をはじめとする登場人物一人一人の苦悩や葛藤をリアルタイムで見せる見事な人間ドラマに仕上がっていた。長回しによる一切緊張感の途切れない演出もお見事。
いまや繫盛店となったレストランのオーナーシェフアンディだが、仕事に忙殺され家庭はすでに崩壊しており、愛する一人息子の面会にも行けない。
シェフとしての腕前は一流だが、そんな状況下で次第に仕事もおろそかになり、常に酒とドラッグが手放せない状態に。
そんな彼に周りのスタッフの不満がつのる。仕事には遅れ、仕入れも滞りがち、料理の下ごしらえも出来ておらず、あげくに衛生管理も怠り店のランクを下げられてしまう。
また、一見店を上手く仕切っているかのような支配人は共同経営者の娘で、予約過剰による厨房スタッフのオーバーワークにも気づかず、給仕も仕切れないファザコンである。
こんな状況下で店は繫忙期の一夜を乗り切られるのか。まさに綱渡りの一夜が幕を開ける。
店はオープンし、ただでさえ忙しい中、レイシスト親父によるあからさまなクレームや、迷惑系ブロガーのわがままな注文、そして極めつけはアンディの元雇い主が評論家を連れてこれ見よがしに料理に注文をつける始末。
そんな状況下でも辛うじて切り盛りしていたアンディだったが、ついに恐れていたことが起きてしまう。アレルギー体質のお客に禁忌食材が入った料理を提供し客が発作を起こしてしまうのだ。
原因がアンディにあったことが発覚し、周りのスタッフはついに我慢の限界(ボイリングポイント)に到達。助手のシェフは今までの不満をぶちまけ、片腕のカーリーは店を移ると言い出す。
限界点に達したスタッフたちを見て、アンディは気づいたはず。これが正常な人間なのだと。限界に達すればぶちまければいい。そうでなければ人は正気なんて保てない。
酒とドラッグで正気を保ってきたアンディの限界はとうに過ぎていたのだ。ただそれを遅らせていただけだったと気づいたアンディは酒とドラッグを断ち切る決心をし、その場で倒れこむのだった。
いずれは生じるであろう人間の限界点。それが起きる様をレストランを舞台にスリリングに描いた本作は、まさに人の心が折れる瞬間をリアルタイムで感じられる最上のエンターテイメントだった。
そして一人の人間の破滅を描いてはいるが、同時に再生を予感させるラストで本編は幕を閉じる。
今晩は。
今作、観たかったのですが漸く会社帰り(日曜日の午前は、月曜日からロケットスタート出来るように、ほぼ会社に行っています。(涙))に、会社近くのミニシアターで鑑賞しました。
とても面白かったですね。(で、駄目駄目じゃん!と突っ込む所多々あり。)
私は、定期的に京都の馴染の幾つかの小料理屋で酒を呑みますが、入店するのは開店時間直ぐです。店には緊張感があり、コースは嫌いなので、アラカルトで注文するのですが、手間がかかる料理でも20分以内には出てきます。
お客さんが少ない時にはご亭主と話しをしますが、忙しくなるとこちらも話しかけません。どの店もカウンターに席を取りますが、一糸乱れぬ店員の動線は観ていて飽きる事がありませんね。
佳き店は、仕入れはその日の最上品を選んでいますし(いくつかの店では、木箱に入った食材を入店直後に見せてくれて、”どうしましょうかね・・
”と聞いてくれます。で、ではその松茸をあぶって下さい、とか、牛を軽く焙って下さい、ジュレを掛けてね・・、とか言う訳です。)
そのうち、罰が当たるかなあ・・。では。