鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成 : 特集
【ネタバレ解説・レビュー】原作愛あふれる忠実展開!
ファンも納得、最終話まで完全再現! …って本当に?
原作ファンが二部作イッキ観して確かめてきた!
「痛みを伴わない教訓には意義がない 人は何かの犠牲なしに何も得る事などできないのだから」
荒川弘氏の人気漫画を実写映画化した「鋼の錬金術師」(2017)。そして2022年5月20日、満を持して続編「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー」が封切られ、さらに6月24日には「鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成」が公開される。
この完結編二部作、コンセプトは前作にも増して原作愛を注ぎ込み、あの最終回までを描き切ること。物語を踏襲し、名シーンの数々を忠実に再現することに腐心したという。
しかし実際の内容はどうなのだろうか? 正直に言えば、前作は原作ファンからは賛否両論を巻き起こした。疑っているわけではないが、「ハガレン」ファンが鑑賞したら、何を感じるのだろうか?
その疑問にお応えすべく、映画.com編集部の原作ファンが二作イッキ観し、確かめてきた。「復讐者スカー」「最後の錬成」は、果たして面白いのか? それとも……!?
[筆者の紹介]編集者O(男性・30代前半)
小学生のころから「ドラゴンクエスト」の情報を求め月刊少年ガンガンを買っていたため、「鋼の錬金術師」原作は連載開始からリアルタイムで読んでいた。子どもの頃はロイ・マスタングのかっこよさに憧れていたが、30代に入って再読するとバッカニアや検死専門医ノックスらが好きなキャラに。おっさんたちの渋さよ。
●原作愛を全開、最終話まで忠実に描く“完結編” 主演・山田涼介「原作リスペクト忘れず撮影」
本題の前に作品のおさらいをしよう。エドワード・エルリック役で主演した山田涼介によると、本作は「原作へのリスペクトを忘れないよう心がけた」という。
「現場ではずっと漫画やアニメを見ながら話し合いもして、指の角度ひとつをとっても細部にまでこだわったので、それが映像に映し出されていると思います」。
山田は大の原作ファンなだけに、この言葉は重い。作品関係者に話を聞いても、やはり原作愛を最優先し、いかに映像的に再現するかが企画の柱だったと証言している。
そのうえで、完成した作品はどれほどの出来栄えなのだろうか? 以下、30代前半・男性編集者のレビューをご覧いただこう。
原作ファンの編集者が二部作を連続鑑賞してみた
実際どうだった?愛せる?それとも?…本音でレビュー
編集者O:前作「鋼の錬金術師」ではキャストインタビューなどを担当していた縁もあり、完結編二作を連続鑑賞する貴重な機会を頂くことに。
改めて単行本全巻を購入・読破し、万全の状態で試写に臨みました。この年になって読み返すと、メインキャラはもちろんですがそれ以上にバッカニアら“脇役のおっさんたち”にめちゃめちゃ心惹かれるな……。
●まずは「復讐者スカー」レビュー:再現度◎ 後編への期待値アガる“愛”を感じられた
で、「復讐者スカー」上映開始。「ハガレン」20周年記念ロゴが燦然と表示されたあと、物々しい雰囲気で本編が幕を開けます。
杖の義足につばの広い帽子……“銀(しろがね)の錬金術師”ことジョリオ・コマンチが、夜道の石畳を歩いています。そこへフードを目深にかぶったイシュヴァール人……新田真剣佑演じる“傷の男”スカーが道を塞ぎ、短い会話ののちに弾かれたようにバトルが始まります!
雷のような錬成エフェクトもかっこいいんですが、セリフの再現度にまず驚きました。コマンチじいさんが「なつかしい戦場の感覚」と叫びますが、「戦場」を“せんじょう”ではなく“いくさば”と言っていて、原作コミックのルビ通りなんですよね。大まかなシーンだけでなく、細かいところまで抜かりない、という決意表明のように感じました。
そしてやっぱり、新田真剣佑演じるスカーが良い! 圧倒的強キャラ感は120%。特に上半身がすごく、分厚い革ジャンごしにも隆々とした筋肉の質感が見て取れます。実写で動いていることの“しっくり感”は随一(渡邊圭祐扮するリンも良かった)で、ファンも一見の価値アリだと思います。
で、エピソードの順序の入れ替え、ブレンドはありつつも、個人的には「尺や展開のためには“これ以上”はないかも」と納得できるチョイスで原作の再現が続いていきます(もちろん異論はあると思います)。「このバカ兄!」のシーンではアルフォンス役声優・水石亜飛夢の熱演により感情がブーストされ、しっかり胸から感動が込み上げてきました。
何よりも、事前に「あれは盛り込まれてる?」と想像していたセリフや、観てみたかったシーンが、高い確率で入っていました。あ、この流れは……あの名言がくるぞくるぞ、と期待が膨れ上がり、そして待ち構えていたセリフが一言一句違わずに役者の口から飛び出てくる! 楽しい。この調子なら後編にあたる「最後の錬成」もきっと良いはず。素直にそう感じながら「復讐者スカー」は終盤戦に。
ラストシーンで「To Be Continued…」が表示されたときは、「うお、そこで終わるのか!」と少々驚きました。でもまあ、事前に「意外なラストシーン」と聞いていたら、原作ファンなら半分予想はつくかな?とも思いながら、エンドロールを眺めていました。
「これは後編も観なくては」との思いが強烈に高まりつつ、最終回まで描き切るという「最後の錬成」へ、いざ!
●「最後の錬成」レビュー①:原作でみた名シーンが文句なしに具現化! 最高の完結に浸れた…
結論から言います。個人的な意見ですが「最後の錬成」も大変楽しめました! 映画三部作の尺で原作27巻分すべてを再現することは土台不可能なわけですが、そのなかで本作はできる限りの最大と限界突破をとことん目指した、という気概が伝わってきたからです。
やはり再現度の高さが印象に残ります。ホーエンハイムが語るクセルクセス王国のエピソードは特に良く、王国の街並みをはじめ、奴隷23号が「フラスコの中の小人」と出会う部屋の様子や、机に雑然と積まれた本、そして特徴的なフラスコの形まで、原作の一コマからそのまま抜き出してきたかのよう。
やや「フラスコの中の小人」が陽気すぎるかな?と思いましたが、クセルクセス王の目元の落ち窪み方まできっちり再現されていたことはポイント高かったです。
ほかにも出るわ出るわ、記憶に残る名シーンの数々……! ほんの一部を抜粋して列挙します。
・真理の扉前で全裸待機するアルフォンス(立てた膝の角度まで一緒!) ・“お父様”の足踏みで円がブワッと広がる ・スロウスの超スピードタックルと、アームストロング姉弟の反応 ・プライドのモールス信号 ・俺の鎧コレクション!そして肝心の“お父様”との戦いは、作品の3分の2ほどを割いてがっつり描かれます。何度も読み返したくなる原作の怒涛感と、ひとつひとつのシーンの力強さが、実写でもひしひしと伝わります(バッカニアの活躍もちゃんと見届けました)。
“最終話”にあたるエピソードにも真摯に向き合っており、実写ラストシーンは、原作の最後のコマを読んだときの、爽やかで、でもどこか切ない読後感がぶわっとよみがえってきました。堂々の完結、そう言えるラストでした!
●「最後の錬成」レビュー②:アクションもスケールアップ! 見応えたっぷり、想像以上の出来栄え
そのほかに目を向けると、アクションの迫力が前作よりも増しているように感じました。VFXも進化していて、錬成シーンがよりかっこよく演出されているんですね。
全編通じて、エド&アルの手合わせ錬成と体術を組み合わせたバトルや、マスタング大佐のデタラメに強い爆炎、ほかにもお父様との地球規模の最終決戦など、かなり盛りだくさん。さまざまなアクションが次々と飛び出ては、息つく間も与えてくれません。
ここで特筆したいのは、舘ひろし演じるキング・ブラッドレイ大総統です。大砲が飛び交うホコリまみれの戦場で、汚れやシワひとつない白シャツを光らせながら二刀のサーベルを構え、「私の城に入るのに、裏口から入らねばならぬ理由があるのかね?」と殺気バキバキで問う姿がたまりません。
そして静から動へ恐るべき速度で移行し、繰り出される圧倒的な剣術……作中最強のバトルスキルを誇る“化け物”がいかに立ち回るか? ブラッドレイ VS グリード、いわば最強の眼 VS 最強の盾の戦いもハイスピードで見どころ満載。乞うご期待です!
●「最後の錬成」レビュー③:ドラマも深い…! テーマも忠実に描き、ファンも納得の展開に
再現度やアクションのほかで、強く印象に残ったのはドラマの部分。約束の日に向けたサスペンスや、軍上層部の陰謀と国土錬成陣……多くの登場人物のトラウマとして刻まれるイシュヴァール殲滅戦ですら、壮大で邪悪な計画の一部でしかなかったという恐怖とやるせなさが、うまく物語のスリルを増幅させ、観る者をぐいぐい引き込みます。
「鋼の錬金術師」ならではのテーマ――人は何かの犠牲なしに何も得る事などできない――を、最大限すくいとり描こうとしている点も見逃せません。ウィンリィとスカー、マスタングとエンヴィーらの対峙を通じ、復しゅうの虚しさ、許す/堪えることの大切さも問いかけ、重層的な物語を観客に提示します。
そうして1人1人が抱えるドラマが寄り合い、やがて糸となる。さまざまな糸が寄り合うことで、一枚のタペストリーを織りなす。そんな過程を、しっかりと感じとることができるんです。
……もちろん(繰り返しですが)尺の都合上、薄くなっていたり、逆に濃くなっていたりする要素やエピソードはあります。「実写では入ってないシーン」はそりゃあいくつもあります。原作がそもそもエピソードの濃度と密度が飛び抜けていますから、描くべき事柄の取捨選択はとても難しかったと思います。
しかし「ないシーン」を目を皿にして探すのではなく、それよりも「ある名シーン」を楽しめば、「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー」「鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成」の映画体験は豊かなものになります。
事実、筆者はそんな感覚でスクリーンを観つめていました。映画サイト編集者としてではなく、鑑賞を終えたいち原作ファンとして、素直に思ったのはそんなところです。
【ネタバレレビュー】本編鑑賞後に読んで下さい…
原作ファンがあえて語る「このシーンが大好きすぎる」
編集者O:これを読む方々が少しでも「もう一回観に行こうかな」と思ってもらえるように、細かいところで「ここ良かったよね」をいくつか挙げていこうと思います。
ブラックハヤテ号が、チラッとしか映らないのに原作とソックリの犬をキャスティングしてるところ、良かったですよね。ハボックが脊髄損傷しないルートも、賛否はありそうですが個人的にはなんか嬉しかったです。
ブラッドレイの辞世の句で「多少 やりごたえのある 良い人生であったよ」がありますが、実写でも「であったよ」をしっかり再現していたの、良かったですよね。エド VS 神となったお父様では、山田涼介 VS 山田涼介が観られて、ファンでなくてもこの対決はアガりましたよね。
また、「鋼の錬金術師」のすごいところは、その読後感の良さにもあると思っています。実写でもその感覚は得られまして、個人的に一番良かったのは、ホーエンハイムとトリシャの“結末”もちゃんと収められていたところ。
原作コミックスでは、最終話→外伝→ギャグ4コマ、の流れでこの結末という構成。直前のギャグのギャップもあり非常にグッときたため、とても好きなシーンだったんです。
それが実写では、どう描かれるのか、そもそも盛り込まれているのか? 気になっていましたが、クライマックスにその瞬間がやってきました。内野聖陽演じるホーエンハイム。仲間由紀恵扮するトリシャ。「あら もう来たの?」「あとはこの世界が 子供達を 強く育ててくれるさ」。2人の背中をとらえ、カメラはスーッと引いていきます。
これを観た瞬間、シンプルに、「ありがとうございます……!」と思いました。
キャスト・スタッフが原作愛を注ぎ込んだ「鋼の錬金術師 完結編」。さて、あなたは本作について、どう思いましたか?