ザ・ホエールのレビュー・感想・評価
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愛はそもそも歪なもの
ダーレン・アロノフスキー監督は、『ブラック・スワン』ではナタリー・ポートマン、『レスラー』ではミッキー・ロークと、主人公の心の闇を極限まで描くのが特長だ。バレリーナ、レスラー、そして今回はオンライン講師。
それぞれの心の闇は底なしだ。
この作品のブレンダン・フレイザーもしかり。同性愛者の死で、過食症になった200Kgの巨体の男の極限を体当たりで演じている。
彼のメイクアップは圧巻で、立つこともできない身体は、悲惨の度をはるかに超えている。
余命がない男とヤンキーな娘と金がない妻と、どこにもプラス面はころがっていない。
おまけにトランプの支持層が多い中西部のアイダホが舞台ときている。
だが、彼らをほうっておけないなにかが、この作品にはある。
それはおそらく、ダーレン・アロノフスキー監督が、一貫として「歪な愛」を描いているからだろう。
逆を言えば、愛はそもそも歪なもの、と描写する彼の演出がお見事というしかない。
クジラ
絶対に誰からも愛されず突き放され味方もいない彼、だからそれを理解したいんだな!
これ程までにどうにも成んない 無限の馬鹿野郎はいないな。
兎に角 今すぐ病院へ行け!!!
オレがダチなら真っ先にそう進言するよ。
血圧上240、心不全の症状が悪化で今週にも死ぬだろうと言われ
続ける主人公の チャ-リ-。
この巨漢男の過去と、娘エリー、友人リズ、元妻メアリ-
そして偶然訪問の宣教師ト-マス。
彼等が織りなす 彼チャ-リ-との繋がりの中でみる
自分の人生の岐路と彼の生き様、情けなさ。
どうにか出来るのに どうにも成らない。
人は分かっていて何故しないのか・・・
そんな映画『ザ・ホエール』を観た。
彼の本当の心の思い信念を感じて観てやって
欲しいんだな。そう思う。
理解が難しいけど 死にたい訳では無いと感じる。
心の何処かでは 何とか成りたいと思っているんだよね。きっと。
それが人って言う者だと思う。
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素直に思った事。(病にて我ながら文脈構成が破綻ですわぃ)
・A24作品なんだが、今作もポリコレが主で 彼らはどうしても
アカデミ-賞が欲しかったんだと思われる。
主がアジア人で無いだけで、人種扱ってたら的を射抜いてたと思う。
これはどれも設定に仕掛けし過ぎ感あるね。
・ブレンダフレイザ-はマジで良かった。
良くやったと思うわ。流石の最優秀主演男優賞ですよ。
体形を元に戻せたらいいのだけども。
次はガリガリやって欲しい。ジョン・タトゥーロの様にね。
・この映画は男女で見方が大きく変わると思う。
女性には受けないでしょうね。男性は理解できると思うけど。
特に ネット授業の最後にカメラONで皆に姿を晒して
生徒皆の絶句な驚きの表情とか。
ピザ屋の配達若者とドア越しに会話してて
良い雰囲気だったのに、最後にピザ取りに姿現したのを
配達人に見られて 相手が驚きの表情をする所、そして彼の落胆。
ここの心理描写が 凄く上手い。メチャ分かるわ。
人の希望・期待に応えられてない時の受ける心理、思いが
なるほどね~と頷ける。
女性は第一に外見(見栄え)で人を見るので理解難かもしれない。
・大事にしたい一人娘が Z世代的でアフォ。
もうちょっと可愛かったら良いのだが 好かれないタイプ。
そこは主の娘らしいと思うね。
見ててイライラするかもだが、何度も家に来る辺り
父に対して気に掛けているのか。金の為なのか。
・妻と娘と、元の彼氏の妹(介護師)と、金盗んだ訳アリ宣教師
妙な取り合わせ。ピザ屋の配達人と、ネット受講者生徒達。
彼に対して 生きるという行動を示せたものは誰であったか。
何故 病院に絶対行かず死を待つのか。一人娘には心底愛されたいのに。
そこが本当に理解が出来づらい。
・彼はこんな自分に心の底から本気で向き合ってくれる人物を
ずっと探していたんだと思うね。死ぬまでに。
自殺はしないけど病院にも行かず・・・時間の制約を設けている。
やはり心は凄く病んでると思う。
・白いクジラは海の中では自由の象徴なのだろう。
誰からも一目あり どこかで人間に愛されている。
きっとそれと同じ夢を見ていたんだと・・・思うね。
外の世界に触れる(家から外へ出るとき)
彼は その時が自分の最後だと悟っていたんだね。
それを見届ける 娘のエリ-。
最後に彼を パパと呼ぶ・・・
これこそが、そして彼女へ自信をもって生きて行って
欲しい願いが 彼の最後の望み。
ラストは、
最後に娘が ドア越しに振り向き
白鯨の一説を話す~
その時 彼があの世へ飛び立つ
絶句と 見事なメロディが心の奥底に一緒に舞い上がり
何事にも変えようが無い無限の開放感に心が浸る。
それは感じたことの無い秀逸さに触れた瞬間だった。
これにより映画は 閉じられる~
感心のある方は
劇場へどうぞ!
常に登場人物の心理を想像させる脚本は、ノミネートされるべき!
A24作品で何度も目を潤ませられるとは。 久々に主人公に感情移入出来、心の針が振れた・・。
今作は冒頭、訪問者が道を歩くシーン以外は全て、主人公の家でのシーン。(ドア外の廊下を含む) 室内劇だが、それ感じさせない。
かといって主人公の "醜い体" 以外は特別変わった物も描写されていない。
なのに2時間をずっと引き込む。
それは、わずかな物語の進展以上に、登場人物の心の動きをずっと魅せているから。
主人公チャーリーは、過去を悔いているのか・・自身に絶望しているのか・・ 今の彼を支えている唯一の物は何なのか・・。
そして彼を度々訪問し支えるリズは、どうしてこれほど親身になって彼をケアするのか・・。
娘はどうしてあれほど傲慢な態度で相手を見下し、父にさえ「 You're disgusting! 」と言えるのか・・。
(字幕は ”おぞましい” と見た目にも含みを持たせているが、本来は、あんた最低! おまえはむかつく! という様な言葉)
等々、常に登場人物の心の動きを、見る物に想像させている。
さらには、PC画面の文字を追わせたり、一部屋だけ綺麗に整った部屋を描写したり、「白鯨」の一節はなにを意味するか、そしてTVではアメリカ共和党の支持率情報が流れている(共和党=トランプさん側は福音派信者も多く、聖書を重んじる方が多い)等、見る物の脳を適度に動かす機会を与え続けている。
私は今作が男優賞と共に、「脚本賞」も受賞すべきぐらいに感じた。
この年、脚本賞ノミネートは「イニシェリン島の精霊」
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」「フェイブルマンズ」「TAR/ター」「逆転のトライアングル」,で「逆転・・」以外は全て視聴したが、今作の脚本が一番秀逸に感じ、強く引き込まれた。
ノミネートさえされなかったのは、おかしいと感じる。
キャスティンも素晴らしく、少ない登場人物だが、全ての役がドンズバ人選で、抜群の表現力を発揮して、誰も役を演じている様には微塵も感じさせない。
特殊メイクの上からでも繊細に表現した、ブレンダンはもちろん、リズ役のホン・チャウも、まるで肉親と接するような親身な演技に何度も目に留まった。
「SHE SAID」で私が称賛した、母親役サマンサ・モートンも少ない出演時間で十分な存在感を発揮している。
↓ネタバレ含む
今作、一番目頭が熱くなったのは、チャーリーの、
「僕は人生でたった一つ、正しいことをしたと!」の台詞シーン。
もう、チャーリーは自分自身の存在とその命にも未練の欠片もない。
ただ、娘に一財産を残すことが、自身の命より優先事項で、唯一彼が出来ることで、唯一の望みなのだ・・。
その為には、自身の治療費でそれを僅かでも減少する事は許されない・・。
そしてラスト・・。
再びエッセイを読んでくれた娘に、以前出来なかった事を実行する・。
立って・・そして一歩二歩と踏み出す・・。
唯一部屋でないシーン、海辺の回想が脳裏をよぎる。
そして、言葉にならない声と共に、中に浮く足元。
それは "絶命" でななく、"天に召された"こと意味する。
端的だが、なんと深い余韻を残すエンディング・・。
倒れ込んでは、悲愁が増すだけだが、あの描写により、
チャーリーは一つの思いを成し遂げた事になる・・。
PS (アカデミー賞授賞式にて)
男優賞で名前を発表された瞬間、ブレンダンは本当に驚いたようで、興奮気味にステージに上がって行った。
そして、目を真っ赤に充血しながら涙を貯め、スランプだった事から本作の依頼が有り難かった事や、共演のホン・チャウの素晴らしさに助けられた事等を語っていた。
(彼の姿はハムナプトラ出演時の"華"はなかったが、その大きな目で飾らぬ言葉に、"正直な人"という印象で、だから ホエールを見事に演じられたのかと・・。)
ザ・ホエール
鑑賞動機:ダーレン・アレノフスキー5割、フレイザー久しぶり!5割
今のボディスーツってこんな本物みたいなんだ。シャワーシーンも普通にゴシゴシ洗ってて、少なくともスクリーン上で観る限り、フレイザーが実際太ったと言われてもわからないくらい。
劇場で見逃してたので、観られてよかった。アレノフスキー監督にはひどい目に合わされているので、ストーリーの行き着く先は予想できることもあり、また心を折られる鬱展開を覚悟してはいたけれど…。
血圧の測定値にドン引きする。倍じゃないですか。回想以外はほぼ室内だけど、小道具など色々と細かいところまで気配りされてる。
あ、OUP の収載誌を見てる。どうせならPubmed を調べてたどり着いてほしかった。(無茶振り)
このエンディングがいいかは正直わからない。でもチャーリー/フレイザーの渾身の歩みからは、少なくとも前半にはなかった強い意志が感じられて、深く心動かされた。
米国の中産階級の下の方の人々を描いた映画
肥満が世界的に問題になっている現在、272キロの巨体の男を映像で見るだけでも価値がある。過食と言っても、どんな食事をしたらこんなに太れるのか、日本人には想像できない。
主人公は、米国の大学のオンライン講師をしているが、生活レベルは中産階級の下の方で、健康保険料が高いので、無保険状態。治療費等が高いので、元パートナーの妹(看護師)に面倒を見てもらっている。職業柄、貧困層になれないが、他の職業なら収入を減らし、貧困層になった方が生活は楽。貧困層になれば、食料援助、健康保険が安く入れるなど、社会福祉が手厚い。
このことは、米国だけでなく、先進国共通の問題で、日本においても、「納税者は4割減税、未納税者は7万円給付」など、貧困層になった方が社会福祉は手厚い。
この映画の登場人物は、ほとんどが、中産階級の下の方で、ギリギリの生活をしている人々の様子がよくわかる。
この映画は、米国が抱えるいろいろな問題を垣間見ることができると同時に、今後の日本が直面する問題でもある。
disgusting
予告編からある程度想定はしていたが、
冒頭の設定自体から個人的には全く受け入れられない。
よって、主人公に微塵も同情しないし、わかろうとも思わない。
これはキリスト教の宗教観とか以前のアイデンティティの問題だ。
観終えて不快感すら残らなかった。
主演俳優は熱演だった。
それだけの評価。
キリスト最後の5日間
チャーリーは巨漢だが決して特別な存在ではなく、私たちと同じく、善人でも悪人でもないグラデーションの中にいる。
“一見普通ではない”人物の内面を深く掘り下げ、一人称で語ること。それは異質なものに背を向け排除しようとする不寛容な現代に、とても重要な問いかけである。
イエス・キリストは自らの無惨な姿を晒し、原罪を一身に引き受けて十字架に掛けられた。身動きできなくなったチャーリーそのもの。これはキリストの最後の5日間を描いた物語。
うまく昇天できないシーンから始まり、カラスを養い、七つの大罪を引き受け、ダンによるジャッジがくだり、最後の晩餐、そしてついに昇天する。
そうしたキリストのモチーフを軸にしながら、『白鯨』を見事に呼応させ、現代社会にメスを入れる。
復讐に取り憑かれたエイハブ、攻撃を受け続ける鯨。そして悲しみを先送りにする語り手=イシュメール。
制御できない依存と怒り、他者の視線と自分から攻撃され、それを先送りにしながら少しずつ死んでゆく精神。それが我々の原罪性であり、我々の社会構造そのものが内包する地獄である。
あの海辺で正直に生きることを決意したチャーリー。怒りと喪失感で鯨(精神)を殺すことが人生ではないと悟ったエリーの姿を見て、思い残すことのなくなったチャーリーは昇天した。
言うほどおもしろくない
ブレンダン・フレイザーが実は業界内の性被害を受けていたとか意外なサイドストーリーも暴露されてて、どんだけ示唆に富んだ映画なのかしらと期待してたけど、何だかゴニョゴニョもちゃもちゃして、上質人間ドラマ気取っただけのやつでした。一番の戦犯は娘じゃないかね。何だか下手な演技でいつもキリキリしてて、母親が出てきて彼女は邪悪って言ったときに、あぁなるほどと腑に落ちたのに最後何かいい子になった?こいつはダメだ、ストレンジャー・シングス程度のドタバタキッズドラマレベルの女優だわ。ブレンダン・フレイザーの復帰に泥を塗りました。あとこの小さくもちゃもちゃした感じはもともと舞台劇だからなのね。そもそも映画化が間違ってたかもね。
壮絶。ブレンダンが素晴らしい。
壮絶。そのひと言につきる。
死期を間近に友人や娘や来訪者を通じて振り返る過去が苦しい。自分が望むものを追ったことで傷つく人がいたことを思い悩む姿。死に向かっていく姿。ピザを貪り食う姿も目に焼き付いている。
ブレンダン・フレイザーはこの役を演じるている間は270kg超の巨体を作る特殊メイク以上に心が削られたのではないかと思うし、だからこそ改めてオスカー受賞が嬉しい。そしてオスカーは逃したもののノミネートされたホン・チャウも本当に素晴らしかった。
I want to be honest
『鯨の描写の退屈な章にはうんざりさせられた。語り手は自らの暗い物語を先送りする。』そして『少しだけ』と言って『この本は私の人生を考えさせ、良かったと思う』
後は、、、
失われぬ再起と救いの光
まずはブレンダン・フレイザー、おめでとう!
『ジャングル・ジョージ』『悪いことしましョ!』などのコメディ演技、代表作である『ハムナプトラ』シリーズや『センター・オブ・ジ・アース』などでタフなアクション・スターのイメージ強く、『ゴッド・アンド・モンスター』『愛の落日』『クラッシュ』などシリアス演技も見せていたものの、まさか彼がオスカー俳優になろうとは…!
売れっ子人気スターだったが、いつしか見なくなり、売れなくなったのかなと思っていたら、そんな事があったなんて…! まさしく今国内のワイドショーを騒がしている事件の加害者と同じではないか…!
その被害自体にも周囲の冷ややかな反応にもショックを受け、嫌になり、一時期ハリウッドを遠退いたというブレンダン。が、やがて#MeToo運動があって彼の受けた被害も見直され、ハリウッドで再スタートを。
ブレンダンのこれまでの苦難への謝罪と本人自身の勇気を示すかのような、華々しいカムバックとなった。
オスカー受賞はその事も加味されてもあるが、それを差し引いても大イメチェンとインパクトと心身共に難しかったであろう熱演は、圧巻の一言に尽きる。
体重272kgの超肥満体の男。ある理由から引きこもり、過食症となったチャーリー。
ブレンダンの主演男優賞と共にオスカーでヘア&メイク賞も受賞。ブレンダンを巨漢の別人に変貌させた特殊メイクとボディスーツも、肉感から体臭まで伝わってきそうなほどの素晴らしさ。
職業は教師で、オンラインで教えている。ハーマン・メルヴィル著『白鯨』をよく引き合いに。この『白鯨』もモチーフの一つ。
博識深いが、カメラはオフで自分の姿は映さず。性格も決して悪い人ではない。が、何処か憐れで、惨めで、弱く、卑屈で醜い部分もさらけ出す。初登場シーンはその見た目もさることながら、いきなりオ○ニー…!
全身全霊たっぷり体現したブレンダンの熱演は、衝撃と共に引き込まれる。
日常生活も自力では何も出来ない。歩く時は歩行器を使い、落としたリモコンさえ拾えない。
そんな体型故、身体の健康状態は深刻。さらに悪化。
なのに、病院に行く事を頑なに拒否。
自分でも悟っている。余命僅か。それも半年とか数ヶ月ではない。おそらく、後この一週間…。
自分の死期を受け入れ、迫り、それでも男が最期の最期に求めたものは…。
主人公がほとんど身動き出来ない為、彼の自宅ワン・シチュエーションで話が展開していく。
彼と、関わる人物が4人。(つまり、メインキャストもほぼ5人)
看護師のリズ。チャーリーの数少ない友人の一人。
ズケズケ物を言い、サバサバした性格ではあるが、チャーリーの身体を擽って笑わせたりと、チャーリーの体型への偏見は一切ナシ。身の回りの世話から心身共に、チャーリーを支えている。
ホン・チャウが名助演。
たまたまチャーリーの自宅を訪ねた宣教師の青年、トーマス。
以来、幾度か訪ねるようになる。
チャーリーに対し、布教を説くが…。
演じたタイ・シンプキンス、『アイアンマン3』に登場したあの少年だとか…!(『アベンジャーズ/エンドゲーム』のラストシーンで彼は誰!?…なんて言われてたっけ)
チャーリーの元に、思わぬ訪問者。
娘、エリー。
8年ぶりの再会。長らく疎遠。
死期が近い父に会いに来た…? 否。疎遠になった理由は父チャーリーにあり。
父を酷く嫌悪している。見た目を侮蔑したり、罵ったり、ここまで歩いてよと無理を強いる。
チャーリーはそんな娘に貯金を譲るという。エリーはただただそれが目的で父の元を訪ねるようになり…。
新星セイディー・シンクも非常に大きな役回りで、鮮烈さを見せる。
終盤のみの登場だが、チャーリーの元妻役で、サマンサ・モートン。
チャーリーと4人の関係が、物語の展開とチャーリーの行く末に大きく影響及ぼしていく…。
チャーリーに献身的なリズ。
チャーリーには最愛の人がいて、亡くしたばかり。引きこもりと過食症になったのもその悲しみから…。
リズは妹。姉…ではなく、兄はチャーリーと恋人同士だったのだ。
リズはトーマスの事をよく思っていない。その理由もここから。
リズの父は教会の人間。同性愛者の兄に、父や教会は酷い仕打ちをし、兄は自殺した。
リズは兄を慕っていた為、兄を死に追いやった宗教そのものを嫌っていた。奇しくもトーマスは、その教団信者…。
何もトーマスに罪はないが、それでもやはり許せない。今また、その宗教がチャーリーを翻弄しようとしている…。
亡き兄に一時でも幸せをくれたのが、チャーリーであった。それはチャーリーも同じ。
リズが同性愛者で肥満体のチャーリーに偏見がないのもこれが理由だろう。リズはチャーリーの悪い部分も良い部分も知っている。
リズの亡き兄へのチャーリーの想いは一途で美しいもの。
が、それを許せないのが、エリー。
父が男に走った為、母も私も捨てられた。
その後のエリーらの苦労はお察しする。世間皆が全員、決して同情的ではない。父親が娘より男を選んだ…そう嘲笑する者も少なくはないだろう。
エリーの性格が所謂“問題児”になったのもこれが理由だろう。
しかし、チャーリーは信じている。娘は本当は善良な子。
死期迫るチャーリーの望み。娘への贖罪…。
が、エリーの父への憎悪は冷めない。
母でさえをエリーを“邪悪な子”と。
父に睡眠薬を飲ませる。悪行はトーマスにも。大麻を吸い、トーマスにも吸わせる。
トーマスから真実を引き出す。実はトーマスは偽の宣教師。
その告白を録音し、写真と共にSNSにアップ。
人一人の人生をメチャクチャに…。
そうはならなかった。思わぬ“奇跡”が起きた。
SNSにアップされた事で、トーマスは疎遠だった家族と連絡が取れる。
赦し、また家族の元に受け入れられた。
自分を救ってくれたのだ。
娘は、人一人の人生を救った。
それは思わぬ事であっても、やはり娘は邪悪な子などではない。
ダーレン・アロノフスキー監督作故、ハートフルな感動作にはならない。
最後の最後まで、修羅場のような緊張感続く。
チャーリーとの出会いは神の導き。神の教えを説くトーマス。
チャーリーとの出会いで恋人の彼は救われた。が、それ故彼は死んだ。
同性愛は罪。その辛辣さにチャーリーは悲しみと憤りを隠せない。
常連のピザの配達人。気さくに話しかけてくれ、いつもドア越しのやり取りだったが、ある時姿を見られ、偏見の目…。暴食に走るチャーリー。
嘘や隠し事で、リズや元妻と口論。
チャーリーはオンラインのカメラをオンにし、自分の姿を見せる。その上で言う。思った事を正直に書け。
畳み掛けるように一気に身に降りかかった事態と共に、何もかもさらけ出す。
まるで、もう自分の命の灯火が尽きようとしている事が分かっているかのように…。
全てを、正直に。
エリーとの対峙。おそらく、これが最期となるだろう。
チャーリーは娘に赦しを乞う。無論、エリーは…。
その時、あるものがエリーを引き留める。かつてエリーが書いた『白鯨』のエッセイ。
名文学をただ誉めるのではなく、思った事を正直に。
その文才を評価するチャーリー。
人生の最期でチャーリーが望んだのは、娘からの赦しではなかったのかもしれない。
自分は娘に対して酷い事をした。恨まれるのも赦されないのも当然。
娘を信じ、気付かせたかったのだ。
善良な子。優れた子。正直な子。
そしてチャーリーもやっと救われた。
あの白い光はきっとそうなのだろうけど、救いと深い感動に包まれて…。
『レクイエム・フォー・ドリーム』『ブラック・スワン』のようなダークな人間ドラマ、『レスラー』のような一人の男の姿、『ノア』のような宗教観…。
いつも一筋縄ではいかないダーレン・アロノフスキー監督作だが、印象に残る。本作も例外に漏れず。
でもやはり、ブレンダンのカムバックが素直に嬉しい。
インディも最後の冒険に出たように、リック・オコーネルの久しぶりの新たな冒険も見たい。
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