「緩慢な自殺に向かう巨鯨に救済の海はあるのか」ザ・ホエール シネマディクトさんの映画レビュー(感想・評価)
緩慢な自殺に向かう巨鯨に救済の海はあるのか
舞台劇が原作なだけあって、アパートの一室で繰り広げられる、重苦しく息詰まるような密室心理劇です。外は雨か曇りの陰鬱な天気で、アパートの室内は終始薄暗く澱んだ雰囲気は、暴飲暴食で信じられないくらい肥大化した主人公の昏く絶望的な心象風景のようです。さらに、次々と現れる宣教師、彼が棄てた娘、妻達によって、欺瞞,偽善、憎しみ,愛情、悔恨、想い出が彼を苛むのは、観ていて息苦しくなります。正直言って、主人公にはまるで感情移入できないし、彼のアパートへの闖入者達は、どいつもこいつも身勝手でイラつくし、映画の内容を全て理解できているわけではありません。それでいて、この救いようのないドラマから目が離せないのは、監督の手腕であり、また、この異常とも言えるキャラを演じ切ったブレンダン・フレイザーの俳優としての誠実で真摯な姿勢だと思います。異常なキャラはオスカーを取りやすいと言われていますが、そんな事は関係なく、いち映画ファンとしてブレンダン・フレイザーの帰還に拍手したいと思います。
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pipiさんのコメント
2023年5月7日
そう言えば、シネマディクトさんとの親交&友誼が始まったのはカミュの異邦人でしたねー。
アレもまた重く息苦しい緩慢な自殺でありました。
そこまで人を追い込んでしまうのはやはり「周囲のまなざし」やら「(正しいと思い込まれている)社会規範」だったりするんじゃないか?と思うわけであります。
袖擦り合うすべての皆さまが幸せであるように願ってやみません。
ではでは、また共感作にて♪