「フレイザーの見事な演技と、巧みな語りが絶妙に連動した一作」ザ・ホエール yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
フレイザーの見事な演技と、巧みな語りが絶妙に連動した一作
今年の第95回アカデミー賞授賞式での、主演男優賞とヘアメイク&スタイリング賞の受賞は、まさに本作を象徴しています。長年の苦しみの後で復帰を果たしたブレンダン・フレイザーの、自らの人生を反映したかのような(というか、間違いなく反映した役作りになっている)演技はどのシーンにおいても忘れ難い印象を残します。
苦難を抱え死期を悟った主人公・チャーリーが家族の絆を取り戻そうとする話、という大筋は予告編でも想像が付くし、実際その通りなんだけど、本作は”泣かせる”要素以上に、薄紙をはがしていくように真実が明らかになっていく語り口が非常に巧みで、展開の面白さという点でも特筆に値する作品となっています。
ほとんどチャーリーの居室で物語が進むため、画面に差し込む光は少なく、話の深刻さも相まって全編やや落ち着いた、というか暗い印象を受ける映像となっているんだけど、それだけにある場面の輝き、開放感は圧倒的です。この強烈な対比によって、物語のテーマが映像的にもより一層明瞭となっています。
ほぼ最初から登場するある人物は、その行動によって物語の方向性に決定的な影響を与えるんだけど、行為自体は客観的には許し難くても、でも自分でも思わず同じ行動をしてしまうんじゃないか…、と後々まで考え込まされる場面となっています。
パンフレットは、作中で重要な役割を果たす聖書になぞらえているのか、(チャーリーの巨躯とは対照的に)小ぶりだけど絵画作品を彷彿とさせる装丁、そして手書きエッセイ風のレイアウトとなっているなど入念な造りです。
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