劇場公開日 2023年4月7日

  • 予告編を見る

「再起の物語と俳優キャリアの復活を重ねる、ハリウッド得意技の最新事例」ザ・ホエール 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5再起の物語と俳優キャリアの復活を重ねる、ハリウッド得意技の最新事例

2023年4月14日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

かつて妻と娘を捨て同性の恋人との人生を選ぶも、恋人と死別した喪失感から過食症と引きこもりになったチャーリー。肥満体による負担から心不全が悪化し、余命わずかだと悟った彼は、娘との絆を取り戻そうとする。

ファットスーツと特殊メイクで体重272キロのチャーリーをリアルに体現しただけでなく、本編の9割がた居間のソファに座ったままという制約の中、表情と台詞とわずかな体の動きだけで観客の興味を持続させたブレンダン・フレイザーが、今年のアカデミー賞で主演男優賞を受賞。オスカー受賞の前には、ヴェネツィア国際映画祭での本作「ザ・ホエール」のプレミア上映を伝える報道の中で、それまでのフレイザーが度重なる手術、セクハラ被害、離婚を経験してうつ病になり、俳優として低迷していたことを知った映画ファンも多いはず。そんなフレイザーの困難な時期を思いつつ観るなら、自暴自棄で世捨て人のようになっていたチャーリーが一念発起し、鯨のような巨躯を奮い立たせて娘との距離を縮めようとする姿に涙を禁じ得ない。

本作は舞台劇の映画化だが、ダーレン・アロノフスキー監督は過去にも、心臓に難のある中年プロレスラーが人生の再起を賭けて大一番の試合に臨む「レスラー」で、長年低迷していたミッキー・ロークを見事復活させた。アロノフスキー監督のこれら2作に限らず、過去の栄光から転落を経て再起しようと奮闘するキャラクターに、実際にキャリアが低迷していたかつてのスターを起用してカムバックさせるのはハリウッドの得意技。ヒーロー映画で一世を風靡した俳優が再起をかけてブロードウェイの舞台に挑む「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で主演したマイケル・キートンや、17歳にして大スターになったジュディ・ガーランドが40代の借金生活から起死回生を図る「ジュディ 虹の彼方に」で主演したレニー・ゼルウィガーなどが好例だ。最近の公開作では、ニコラス・ケイジがどん底の俳優ニック・ケイジという自虐的なキャラクターを演じた「マッシブ・タレント」にも、そうした傾向が認められよう。

高森 郁哉