「白鯨が繋ぐ父娘間の愛憎劇」ザ・ホエール 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
白鯨が繋ぐ父娘間の愛憎劇
本作で今年のアカデミー賞主演男優賞を獲得したブレンダン・ブレイザーが、主人公のチャーリーを演じた父娘間の愛憎劇でした。チャーリーは、かつて自分の教え子・アラン(男性)と恋仲になり、妻と娘を捨てた過去がある。ところがアランが亡くなってしまったことから、過食症かつ運動不足に陥り、今では272キロもの巨漢になってしまい、自立歩行すら出来ない状態。収縮期の血圧が優に200を超えるなど、本来なら入院治療が必要なのに、お金がないことを理由に病院にも行かない。そんなチャーリーを手助けしていたのが、アランの妹でホン・チャウが演じた看護師のリズでした。
チャーリーは目前に死が迫っているたことを悟り、娘のエリーとコミュニケーションを取ろうとするものの、エリーは自分を捨てた父親に悪態をつきまくる。それでも自分の遺産を全てエリーに与えるという、極めて打算的ではあるものの、恐らくは唯一の解決策を使ったことでコミュニケーションが続き、それを端緒に父娘の間柄がグダグダながらも回復していき、遂には本人的には願いが叶ってエンディングを迎えることになりました。
タイトルの「ザ・ホエール」というのは、言うまでもなくハーマン・メルヴィルの不朽の名作「白鯨」から来ているもの。これはチャーリーの巨体を表しているとともに、エリーがかつて書いた「白鯨」に関する感想文が、物語のキーになっていることとも繋がっていました。映画を観たついでに「白鯨」を読もうかと思いましたが、上下巻で1000ページにも及ぶ超大作なので、読み終える自信が持てず止めました。。。
ところで本作では、チャーリーの巨体や所作が、実にリアルに再現されていました。巨体の造形は言うに及ばずですが、その動きをリアルに演じたブレンダン・ブレイザーの演技は、アカデミー主演男優賞に相応しいものだったと思います。また、「ザ・メニュー」で薄気味悪いウエイトレスの役を演じていたホン・チャウが、献身的な看護師の役を演じていました。こちらはアカデミー助演女優賞にノミネートされ、惜しくも受賞は逃しましたが、なかなか印象深い演技だったと思います。
娘役のエリーを演じたのはセイディー・シンクでしたが、父親を毛嫌いするいかにも今風の女子高生の姿は、父親が自分を捨てた過去があるとは言え、結構引くくらいに酷い態度でした。これも彼女の演技が良かったという証拠なのでしょう。
総括すると、父娘の愛憎劇という点では平均点をやや上回るものであり、巨体を再現したメイク技術とその所作を演じたブレンダン・ブレイザーの演技はそれなりに良かったかなと思う作品でした。