「愛と繊細さと奇想天外さのバランスが秀逸」ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
愛と繊細さと奇想天外さのバランスが秀逸
もしウェインの名を知らなくとも、彼が描いた猫たちには多くの人が触れたことがあるかもしれない。猫といえばウェイン。時代の激変期たる20世紀初頭、彼のイラストはイギリス社会に大きな猫ブームを巻き起こした。もちろん本作における猫たちも格別に可愛らしいが、しかしこの画家が不器用ながら懸命に愛を温める姿は、輪をかけて観る者を優しく惹き込んでやまない。変わり者の異能者を演じれば右に出る者がいないカンバーバッチが、温もりや喜びに加えて悲しみや傷つき易さやひたむきささえ滲ませながら、階級の垣根を超えた愛がいかに主人公の人生に潤いと輝きをもたらしたかを繊細に伝える。同じモチーフを生涯描きつつ、精神の不調や老いも相まって、その画調が奇想天外に変遷を遂げていく過程にも目を見張るものがある。この特殊な愛の物語において、常に遊び心を散りばめ、登場人物の心象を丁寧に構築した若き監督ウィル・シャープの手腕を称賛したい。
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