劇場公開日 2022年7月8日

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「かつてのATG作品やロマンポルノにあった艶かしいエロスと現実に起こった事件と絶妙にシンクロする社会性が渾然一体となった堂々たる問題作」ビリーバーズ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0かつてのATG作品やロマンポルノにあった艶かしいエロスと現実に起こった事件と絶妙にシンクロする社会性が渾然一体となった堂々たる問題作

2022年7月19日
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鑑賞方法:映画館

ニコニコ人生センターなる怪しい団体に所属する男女3人が議長、副議長、オペレーターという役職を与えられて孤島に送られ、本部から指示されるミッションをこなしながら共同生活をする中でどんどんおかしなことになっていく話ですが、『女子高生に殺されたい』ではギリギリ保たれていた節度のリミッターが全く効いていないので邪な人間性がこれでもかと露わにされます。劇中で何度も何度も繰り返されるのが“みんなのために頑張りましょう”。前夜に見た夢までも告白させることで故人の尊厳が破壊された世界では元々は俗世に絶望し理想郷を求めたはずの人が嬉々として自由意志をかなぐり捨てお互いに監視し合う雁字搦めの世界に飛び込む矛盾を強制的に正当化するパワーワードですが、“みんな”を“家族”なり“会社”なり“チーム”なりに置き換えれば自分達が何の迷いもなく受け入れている呪文と同じであり、現代社会が丸ごとカルトと何も変わらないことにゾッとさせられます。

本作が封切りされた同じ日に起こった例の事件の背景にあることと恐ろしいほど精緻にシンクロする描写に激しく動揺しましたが、それは偶然でも奇跡でもなくカルトに掌握されているこの世界で今日もどこかで普通に起こっていることが描かれているに過ぎないのではないかと考えると納得出来てしまうのが不思議です。

そんな社会的なテーマを扱う挑戦的な作品ですが、かつてのATG作品や日活ロマンポルノにあった艶かしいエロスをがっつり纏っているのが本作のもう一つの魅力、R15+という全然デタラメなレイティングは一部の高校生にいい意味で大変なトラウマをもたらすことでしょう。副議長を演じる北村優衣の正に体当たりの熱演は正視に耐えないくらいに痛々しく繊細で美しいです。

よね