「ミュージカルはさすがの素晴らしさだけど、ドラマの内容は相当につらいものがある一作」カラーパープル yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ミュージカルはさすがの素晴らしさだけど、ドラマの内容は相当につらいものがある一作
本作と同じアリス・ウォーカーの原作をスピルバーグは1985年に既に映画化しており、さらに本作の製作にも携わっているということで、逆光を活かした画面構成など、本作からは特に映像面で、スピルバーグの強い影響を感じ取ることができます。もっとも本作における陽光は明らかに、神の恩寵を意味しているため、スピルバーグ的撮影術の踏襲にとどまらず、作品の主題としっかりかみ合った映像となってます。
また本作は、主人公セリー(ファンテイジア・バリーノ)と歌手のシュグ(タラジ・P・ヘンソン)との関係性がより親密さを増しているなど、単なる前作リメイクではない変化を加えています。セリーを演じたバリーノは、ミュージカル版でも同じ役を演じていることを考えると、本作はスピルバーグ版のミュージカル映画化というよりも、ミュージカルの映画化、と言ったほうがより適切なのかも。
冒頭から素晴らしいミュージカル場面が展開しますが、ドラマパートもしっかりと描いていているため、鑑賞中は「ミュージカル映画」という認識はさほど持ちませんでした。
しかしそのドラマパートで展開する話の内容はなかなかきつい…。20世紀初頭以降の米国社会に生きる黒人の人々に焦点を当てているため、どうしても人種差別の問題が物語に絡んでくるんだけど、セリー達を直接的に苛む脅威は、白人による抑圧以上に実の父や夫らが振りかざす暴力的な父権主義です。
その抑圧に対してセリーやシュグらは立ち向かい、結末において一応の決着があるんだけど、それで彼女らが受けた受難の対価として十分なんだろうか…、と考えずにはいられませんでした。
なおこれまでの作品と比較してみると、シュグの人物造形や人間関係などの描写が異なっているようなので、それぞれ見比べてみるのも興味深いかも。