「過酷な人生を照らすパワフルな歌声、85年版との雰囲気の違いに驚く」カラーパープル ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
過酷な人生を照らすパワフルな歌声、85年版との雰囲気の違いに驚く
スピルバーグによる1985年版の「カラーパープル」を予習して臨んだが、物語の筋はほぼ同じなのに雰囲気がかなり賑やかなことにちょっと面食らった。
ミュージカルだから、まあ当然ではある。冒頭から、胸を震わす迫力のコーラス。85年版は最初の30分ほどの展開が特につらくて胸が塞がるような気持ちになるが、ほぼ同じ展開でも歌が挿入されたおかげか、全体的に何となくソフトな雰囲気になっていた。
黒人として生を受けた人々の天賦の才とでも言おうか。ダンスで見せる生命力にあふれるリズム、ボーカルの音程の確かさと力強さ、コーラスの心地よい音圧。このクオリティで表現される登場人物の心の声には、観客の感情を動かすパワーがある。
歌の力に圧倒された一方、物語描写と俳優の顔ぶれに関しては、個人的には概ね85年版の方が好みだった。
一番気になったのは、ソフィアの扱いだ。市長を殴って牢屋に入ってから、クライマックスの食卓で自分の言葉を取り戻すまでの時間が、体感的にとても短い。本作は85年版より若干尺が短い上、挿入歌に時間が割かれるためか、彼女のエピソードがぱっと思い出すだけでも2つほど削られていた。85年版では、彼女がひどい仕打ちを受け、心を病んでいた時期を長く感じたからこそ、あの食卓でついに復活した場面にカタルシスを覚えた。本作では、相対的にこの部分が物足りなかった。
シュグのごつさ(申し訳ありません)も気になった。85年版でシュグを演じたマーガレット・エイヴリーが、あまりに都会的で美しかったので……。ウーピー・ゴールドバーグが演じたセリーの人となりや人生とのコントラストを、そのルックスの違いが雄弁に語っていた。
本作は主要キャスト3人(セリー・ソフィア・シュグ)ともがっちり体型なので、85年版の後に見ると各々のキャラ立ちが弱くなっているように見えた。
また、ミュージカルシーン自体は確かにクオリティが高いのだが、85年版にあった物語進行のテンポのよさが、歌唱シーンが挟まれることによって失われたように感じた。
シュグがセリーに歌う「Miss Celie’s Blues(Sister)」は85年版でも歌われているが、使われるタイミングが違うことで微妙に違う意味合いを帯びる。
85年版で歌われるのは、彼女が最初にハーポの店に出演した時だ。普段着のまま店に来て、周囲の女性客に馬鹿にされていたセリーに向かって歌うので、シュグがセリーの内面に惹かれたということが際立つ。誰からも見下されていたセリーを救済する歌でもある。
本作では、ミスターのもとを離れついに自由を得たセリーを祝福するように歌われ、これまで耐え続けたセリーがようやく噛み締めた解放感や芽生えた希望までも、その歌声が描き出す。
同じ歌でも、使いどころでそのようにニュアンスが違って聞こえたのは面白かった。
本作の方がよかったと思えたのは、終盤のミスターの描写だ。
85年版では、原作にはあったという落ちぶれたミスターが改心する過程が描かれず、移民局からセリー当てに届いた手紙を、ミスターが勝手に移民局に持っていく、という台詞なしの短い場面がラスト直前で挿入された。何か悪さをしたのかと思ったら、次の場面では再会した姉妹を遠巻きに見守っていたので、彼の唐突なキャラ変に戸惑ってしまった。
本作では、少々駆け足だが原作にならってミスターの改心がきちんと描写されていたので、若干ご都合感はありながらも引っ掛かりを感じず見ることができ、最後はやさしい気持ちになれた。
同じ物語を描きながらも、歌の力によって重すぎず見やすい雰囲気になった本作。
当時の女性差別や人種差別を描き、同性愛の要素もある物語は、LGBTQが広く知られるようになり、BLMやMeToo運動を経た今、むしろ現代的でさえある。
この物語を生んだアリス・ウォーカーもさることながら、80年代に映画として世に問うたスピルバーグの慧眼に改めて感じ入る。
お返事ありがとうございました。
長いコメント、溢れ出る深い映画愛が伝わって、とても嬉しいです。パソコン苦手で、滅多に触らないのでわかりませんでした。
素晴らしいレビュー、また期待しています。
ニコさん、ご丁寧なコメントありがとうございました。
85年版、やはりエピソードが深かったんですね。原作を読まれてたからこそ、物足りない面もしれました。素晴らしいレビューです😭…
共感ありがとうございました。
確かに85年版よりソフトでしたね。
38年前!なので朧気にしか覚えてないのですが、ソフィアは今回版より、殴られた顔がすごかったような。段々思い出してきました。
85年版との詳しい比較が知りたかったので、ようやく違いがはっきりしました。エピソードが2つ削られては、もう別の作品ですよね。私ももっと苦しくなる展開を期待してました。