劇場公開日 2023年12月8日

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「完璧なミュージカル・ファンタジーです」ウォンカとチョコレート工場のはじまり クニオさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5完璧なミュージカル・ファンタジーです

2023年12月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

幸せ

 まるでと言うより殆ど完全なミュージカル・ファンタジー映画、それもあのハリウッドの若手スター筆頭のティモシー・シャラメが華奢な躯体で歌い踊る! 途中でアンソニー・ニューリー の「PURE IMAGINATION」の旋律が伴奏として流れ出し驚いた。さらにシャラメ扮するウォンカが朗々と歌い出し、本作のメインテーマとなっているではないか。この名曲は1971年の当時の大人気コメディアン・スターであったジーン・ワイルダー主演の映画「夢のチョコレート工場」のためにアンソニー・ニューリーが提供したもの。純粋な空想の世界に行けるのさ、欲しいものがあったらそうすればいいのさ、見てごらんそうすれば君は君の想像の中に入れるのさ。まさに本作のテーマのエッセンスが込められている。新作ミュージカルなのにメインテーマを旧作に委ねる太っ腹に拍手喝采です。

 どうやら、その後ミュージカル・プレイとして上演もされたようです。もとはと言えばロアルド・ダール作の児童小説がベースです。ティム・バートン監督・ジョニー・デップ主演の「チャーリーとチョコレート工場」2005年(おやま、もう18年も前)ってことは、今時のティーンはまるでご存じないわけ。であれば、デップ版の前日談となってますが、捕らわれる必要はさらさらなく自由な発想が可能となる。まっ、チョコレートをめぐるファンタジーなのであり、リブートでも全然構わないわけです。

 その意味で、壮大なセットで驚くほど多くのダンサー達による群舞を、目くるめくカラフルでファンタジックなステージで描く、幸福有頂天の映像を成し得た。お話は至極ありきたりなのはやむを得ず、それを如何にイマジネーションを膨らませられるかが勝負。その意味で、十分に満足です。今夏の「バービー」同様、コテコテのスタジオセット撮影の美しさを再認識出来る。ここにはティム・バートンのシニカルとかダークとかシュールな感覚は皆無、ひたすらまっとうを貫いて、少々一本調子の中だるみは正直覚えました。

 とことん Made in the UK ゆえ、魅惑のスターが勢ぞろい。ウンパルンパ役で場をさらうヒュー・グラントを筆頭に、女王役の多いオリビア・コールマンがえげつない安宿の女主人を、薄幸の母親役のサリー・ホーキンス、クランチ役のジム・カーター、セクシーボイスのキーガン=マイケル・キー、思いがけず登場のローワン・アトキンソンなどなど。ことにもオリビアとサリーの主役級トップ実力派スターが同じ作品なんてちょっとあり得ない。

チョコレートの世界は日本で愛される以上に、ヨーロッパでは深い歴史と情熱で語られるスイーツでしょう。古代より滋養のある飲み物として、オランダのバンホーテンさんがチョコをパウダーにする技術を確立し、スイスのネスレさんがパウダーミルクの開発により、今のミルクチョコレートに繋がる。それぞれ今は巨大企業になってますね。そんな土壌があってこそチョコレートの高級化は留まるところを知らず。だから本編中の大金持ちオーナーを有するチョコレートカンパニーが存在するし、人々がチョコに熱狂するのも理解できる。

 それにしてもこのタイプの作品には、ヒュー・グラントのとことん頑固な英国英語があってこそ、なのは確かでしょう。

クニオ