ドント・ウォーリー・ダーリン : 特集
「ミッドサマー」「ゲット・アウト」に衝撃受けたなら
絶対コレも観て! 私の人生は“支配”されていた――
一度入れば抜け出せない極限のユートピア・スリラー!
「体感したことのない“刺激”を味わいたいな……」「目がさめるように衝撃的な物語を観たい……」
そんな思いで“次に観る映画”を探しているのなら、ぜひこの作品をチェックしてみてほしい。
11月11日から公開される「ドント・ウォーリー・ダーリン」だ。
どういう作品なのか? ともすれば“幸福なラブストーリー”にも思えるかもしれないが、実態は観る者に衝撃を与えるユートピア・スリラーだ。鑑賞した感覚としては、本記事タイトルに挙げた2作品に近いものがある。
全米で初登場No.1ヒットを記録し、「今年、最高の1本」などと評価された今作。このぶっ飛ぶような映画体験、何よりも優先して味わってみてほしい。
本記事では、映画.com編集部がその魅力を解説。あらすじやストーリーテリングの巧みさ、そして主演俳優の存在感と監督の手腕などを詳述していく。
「ミッドサマー」「ゲット・アウト」…見かけと裏腹の
“不穏スリラー”が好きなら、絶対オススメの野心作!
まずは予告編をご覧頂いたうえで、今作がどんな映画なのかをわかりやすく解説していこう。
●幸福な家庭、満ち足りた生活…しかし“何か”がおかしいユートピア・スリラー
物語は、完ぺきな人生が保証された街・ビクトリーで始まる。アリス(フローレンス・ピュー)はそこで、愛する夫ジャック(ハリー・スタイルズ)と平穏な日々を送っていた。
物質的にも精神的にも豊かで幸福な生活。しかしアリスは、隣人(キキ・レイン)が“赤い服の男たち”に連れ去られるのを目撃する。以降、彼女の周りで頻繁に、不気味な出来事が起きるようになる。
次第に精神が乱れ、周囲からも「狂ったのでは」と心配されるアリス。だが、不可解な現象は止まることがない。アリスはこの“楽園のような街”に疑問を持ち始め、やがて……。
※物語のさらなる解説は次のセクション【物語解説】で詳述
●鑑賞後感は“切なく、爽快” 唯一無二の見応えが魅力
一見すると幸福なホームドラマだが、実は不穏な謎が渦巻いている、という作品構造が大きな特徴。近年の特殊スリラー(「ミッドサマー」「ゲット・アウト」など)の潮流を受けた一本であり、これらに衝撃を受けた、いわば“映画の魅力に取り憑かれた”熱狂的な映画好きにおすすめしたい、破壊的な一本である。
とはいえ、嫌な気分や暗い気持ちでは終わらないことも魅力的だ。クライマックスには手に汗握るスケール抜群の展開や、テンションがどんどん上がっていくようなアクションも待ち受けている。
そして鑑賞後は、ストレートに爽快で、それでいて切ない、今作ならではの感覚を味わえる……あまり身構えず、気楽に映画館へ向かい、心ゆくまで“ユートピア・スリラー”を楽しんでほしい。
【物語解説】スリリングなストーリー展開が見どころ
支配された人生から逃れ、真実にたどり着けるか――?
最大の見どころは物語展開の面白さだ。謎が次々に提示され、スリルとライド感全開のまま、怒涛の勢いで結末へと突き進んでいく。
魅力あふれる物語展開を疑似体験すれば、今作を強烈に「観たい」と思うはず。そこでここでは、あらすじよりもう少し踏み込んで、起承転結の“起”と“承”の流れをご紹介。作品世界の一端に触れ、鑑賞意欲を高めていただこう。
●ここはビクトリー。楽園のようなニュータウン。
フランク(クリス・パイン)が創始したビクトリー。ここでは食事も酒も、家屋も家電も家具もなにもかも、一流のものが何でも買える。アリスと夫ジャック(ハリー・スタイルズ)、そして街の人々は、誰もが羨む完ぺきなライフスタイルを手に入れたのだ。
しかし、街には4つのルールがあった。①:夫は働き、妻は専業主婦でなければならない。 ②:パーティーには夫婦で参加しなければならない。 ③:夫の仕事内容を聞いてはいけない。 ④:何があっても街から勝手に出てはいけない――。
●アリスはある朝、卵を割るのではなく“握り潰して”しまう。すると…
卵の中身は空っぽだった。黄身や白身は入っていなかった。この1個が“たまたま”そうだったのか?
同じパックの卵を握り潰してみると、すべて中身は空っぽ。食材はこの街で普通に購入したものだ。異変が少しずつ起き始める――。
●隣人がうつろな表情でつぶやく…「この街にいてはダメ」
フランク主催のパーティー(ほとんどの住人が参加していた)へ夫婦で出かける。フランクの“心に直接入り込んでくるような演説”に、住人たちが聞き惚れている。
と、そこへアリスの隣人・マーガレットがふらりとやってきて「なぜここにいるの?」「この街にいてはダメ」とつぶやいた。
かつてマーガレットは、幼い息子とともに勝手に街を飛び出し、数日後に1人で戻ってきていたのだ。以来、彼女は気が触れたような言動を繰り返しており、周囲からは腫れ物のように扱われている。
●山の向こうに飛行機が墜落。追うと、丘の上に謎の施設を見つける…
「ずっと家にいては息が詰まるから」。アリスは気分転換のため外出する。バスに乗っていると、東の空から飛行機がふらふらと飛来し、山の向こうへ墜落していくのが見えた。
パイロットを助けなくては。弾かれたようにバスを降り、アリスは気づけば“街の外”へと出てしまっていた。
無我夢中で小高い丘にたどり着いた。頂上には、見たことのない建物がどっしりと鎮座していた。鏡のようなガラスに額をつけ、中を覗こうとしてみる。頭のなかに音が鳴り響いてくる。
ブラックアウト。
●たびたび奇妙な光景を見るように。屋根の上で喉を切る隣人、赤いツナギの男たち…
謎の施設で気絶し、目を覚ますと自宅のベッドだった。何もかもが釈然としないまま、日常の一切が飛ぶようにすぎていく。
気絶して以来、アリスは奇妙な光景を見るようになっていた。
隣人のマーガレットは相変わらず妄言を繰り返していたが、数日前から自宅を留守にしている。知人たちによると「誤って屋根から滑り落ちた。命に別条はなく、現在は入院している」のだという。
アリスは知人たちの言葉に愕然とする。みんな嘘をついていると思った。
なぜならアリスは、しっかり目撃していたからだ。マーガレットが喉をかき切って屋根から落下し、ピクリとも動かなくなった彼女を、赤いツナギを着た男たちが運んでいった“その瞬間”を――。
●私は狂ってる…? 謎と欺瞞に翻弄されながら、アリスは“真実”に向かっていく
連日にわたって、アリスは奇妙な体験に苛まれ続ける。もはや彼女には、今見ているものが幻覚なのか、現実なのかわからなくなっていた。
この街が普通ではないことは確かだ。しかし探れば探るほど自分が狂人扱いされ、窮地に立たされていく。
謎はいくつも残っている。このビクトリーという街をつくった“支配者”フランクとは何者なのか? 「世界を変える」ビクトリー・プロジェクトとは何なのか? 真実が徐々に明かされていく――。
……以上、記載したのはこれでも“物語の入り口”だ。本編ではさらに、さらに驚天動地の展開が待ち受けている。期待に胸高鳴らせて、映画館へ急いでほしい。
【今作がもっと面白くなる、見逃せないポイント3つ】
主演俳優の魅力、監督の才能、アメリカでの話題性
最後に、映画.comがピックアップした“鑑賞前後に知っておけば、今作がもっと面白くなる”ポイントを紹介し、特集を締めくくろう。
★主演:フローレンス・ピュー、自らの力と知恵で打開するヒロインとして開眼!
主人公アリス役を担ったのは、「ミッドサマー」で脚光を浴びたフローレンス・ピュー。20代の若手としては世界トップクラスの注目を集めており、今後もクリストファー・ノーラン監督作「オッペンハイマー」、ドゥニ・ビルヌーブ監督作「デューン パート2(原題)」(ともに2023年公開)など話題の超大作への出演が続く。
ピューの魅力は“芯の強さ”にある。彼女は一貫して、逆境や苦境を抱えながら、それでも戦うことや前進することをやめない主人公を多く演じてきた。
「ミッドサマー」ではトラウマを抱えながらも、奇妙な祝祭を経て、己の幸福に目覚めていくダニー。「ブラック・ウィドウ」では、姉に反目しながらも目的のために共闘するエレーナに扮した。そして「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」では迷いながらも目標や夢のために努力するエイミーを演じ、第92回アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされた。
今作「ドント・ウォーリー・ダーリン」のアリスというキャラも、彼女のフィルモグラフィーにおける“強きヒロイン”の系譜に連なる。街の謎に翻弄され、周囲から白い目で見られながらも、アリスは孤立や不安を振り切り状況を打開していくのだ。
ピューは“囚われの姫”などといった、前時代的なステレオタイプには当てはまらない。世界最注目俳優のひとりである彼女の演技を、その目に焼き付けてほしい。
★監督:オリビア・ワイルド、2作続けて“傑作” 今後を担う才能開花か
オリビア・ワイルドといえば「トロン:レガシー」「カウボーイ&エイリアン」などの大作映画に出演する“俳優”として有名だ。しかしむしろ、近年は“映画監督”としての才能が高く評価されている。
2019年に長編映画監督デビューを果たした「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」は、全米の賞レースで多数受賞やノミネートを果たすほどの“傑作”に。そして監督第2作「ドント・ウォーリー・ダーリン」は、「今年、最高の1本」(EVENING STANDARD)などと評価され、全米で初登場No.1ヒットを記録した。
監督デビューから2作続けて傑作を創出。しかも2作は“同ジャンル”ではなく、“まったく別のジャンル(前作はコメディ、今作はスリラー)”で、である。その才能はフロックではないと証明しているかのように見える。
傑作サスペンス「めまい」を彷彿させるヒッチコック的演出術も見事で、ストーリーテリングのスリルで言えば「ゲット・アウト」「NOPE ノープ」などのジョーダン・ピールらと双璧とも言える。女性をめぐる社会問題を、これだけスケール感のあるエンタテインメント作として、鮮やかに描き切ってみせた手腕にも感服させられた。オリビア・ワイルド監督は、間違いなく、今後の映画界の騎手となる注目の人物である。
ちなみにワイルド監督は、今作ではアリスの親友役で出演も果たしている。
★アメリカでは考察合戦が展開…ネタバレ厳禁の熱狂が続く
本記事執筆時点(2022年11月1日)で全米公開から1カ月以上が経過しているが、同国のSNS上では今作の解説・考察がいまだ盛んに行われている。
例えば、物語序盤でアリスが握りつぶした卵は何を意味するのか? 地鳴りの正体とは? 夫たちの仕事とは何なのか? などなど……。
目がまわりそうな勢いで大作・話題作が公開され続けるなか、1カ月以上も話題が持続している。その点で、いかに今作が奥深く、緻密に計算されており、語るべきことが多いかがわかるだろう。
日本でも、ジョーダン・ピール監督作「NOPE ノープ」の考察がSNSを賑わせたことも記憶に新しい。「ドント・ウォーリー・ダーリン」公開後は、またも口コミに考察にと忙しくなりそうだ。ネタバレを食らってしまう前に、ぜひ映画館でご鑑賞を!