劇場公開日 2022年5月27日

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「身分差のある恋愛という一見ありきたりなテーマを、現代的に捉えなおした一作」帰らない日曜日 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0身分差のある恋愛という一見ありきたりなテーマを、現代的に捉えなおした一作

2022年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

大きな窓から入ってくる柔らかな光に満たされた部屋、緑の映える少し霞んだような屋外、などなど、映像の美しさが非常に印象的な作品です。少し沈んだ「赤」が、キーカラーとして衣裳など様々な場面で使われていて、画面を引き締めています。このように、カラーコントロールや光の表現方法という観点で特に見所が多いところが本作の特徴の一つとなっています。

イギリスの上流階級社会の屋敷では、家事全般を執り行うため多くのメイドが働いていますが、ちょうど日本のお盆休みのように、一日だけですがメイド達が故郷に帰ることができるマザリング・サンデーという習慣があるそうです。本作はそのマザリング・サンデーの前後に起きた出来事を主に描いています。

マザリング・デーの間は日常生活を世話する人がいなくなってしまうため、雇い主である貴族達もまた、ピクニックをするなど、思い思いに過ごします。本作の家族達も、この機会を利用して、連れ立って御曹司の婚約お披露目会を開くことにします。

そうして屋敷が留守になった隙を突いて、シェリンガム家の御曹司ポール(ジョシュ・オコナー)とニヴン家のメイドであるジェーン(オデッサ・ヤング)は密かに落ち合います。二人の関係は、一見すると結婚を控えた御曹司の気まぐれな遊び、なのですが、実はジェーンはこの「お遊び」を通じて、後に彼女が自らの人生を選択していく上での様々な要素を吸収していたことが、徐々に明らかになっています。

一見煽情的な場面でも、実は身分や学歴などの境界を乗り越えて進んでいこうとする彼女の内面を表現していることが分かるなど、テーマと映像が見事に一致しています。とはいえ、単なる「成り上がり物」でもない情感を残しているところが、結末の清々しさに繋がっています。

典型的な時代物であるように見える本作ですが、テーマは現代的で、かつ映像の美しさが際立っているので、予告編で興味を持った人の期待はまず裏切らない作品です。

yui