「良い香りがします」帰らない日曜日 penさんの映画レビュー(感想・評価)
良い香りがします
贅を尽くした屋敷での秘密の官能の時間は、それぞれがそれぞれの運命を理解しながらも、ゆったりとした時の流れそのままに、「匂うような時間」であったように思います。そんな時間がとても美しく描かれています。
でもその間、それぞれが「運命」と理解していたものが、実は「運命」ではなかったということ、そしてその後の変転が、その「時間」そのものの忘れ得ぬ素晴らしさに内包されているものだと言うことに、やがて主人公たちは気付いていくのではないか・・・そう思いました。
トマ・ピケティの「二十一世紀の資本」によると、富の偏在は、第一次世界大戦直前に最高レベルに達し、やがて二つの大戦を経てその状況には大きな地殻変動がおこることとなるらしいのですが、この作品で描かれている時代はまさにその分岐点の時代で、それが、物語の要素として陰を落としているのがわかりました。その後の歴史そのままに男の「富」は、間違いなく、忘れ得ぬ「時間」を媒介にして、(資産分割という意味では全くなく)、女に受け継がれていったのではないかと思います。
全裸で、高価な蔵書の並ぶ背表紙に手を触れながら歩くシーン。私には主人公が、文化という富を、紙の香りを嗅ぎながら、全身で吸収しているように見えて仕方ありませんでした。
香りたつような映画でした。
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