「ホン・サンス監督が描きたかったものを存分に描いた感のある一作」小説家の映画 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ホン・サンス監督が描きたかったものを存分に描いた感のある一作
国際的な映画祭でも数々の受賞歴を持つホン・サンス監督が、監督だけでなく脚本、さらには音楽や撮影まで手がけた本作。さらにキム・ミニなどサンス監督の作品ではおなじみの俳優を起用するなど、なんとなく自主映画的な香りすら漂う作品です。
もちろん映画作品としての水準は極めて高く、ややコントラスト強めでありながら柔らかさも同時に表現したモノクロームの映像は美しく、何気なくもどことなく緊張感を漂わせる会話劇を展開する役者の演技も見応えがあります。
サンス監督が制作上でコントロールできる幅が非常に広いためか、主人公ジュニ(イ・ヘヨン)がなぜかつての知人・友人に会おうとするのか、また彼らの間に、おそらく親密さだけではないどのような関係があるのか、といった状況説明的な描写はほぼ省かれています。「今までの作品を観てたら、私の言わんとすることがわかるでしょう」とサンス監督から言われているような気になっちゃいます。
ただ、二人の女性が、互いに不遇をかこつ状況であることを理解しながらも、それでも映画制作を経て手を携えていこうとする意思は、十二分に伝わってきます。
前述の通り、説明的な描写はごく少ないため、物語を細部まで把握したい、という人にはやや消化不良感が残るかもしれないけど、画面が醸し出す雰囲気を味わうことを重視したい、という人には鑑賞を是非おすすめ。もちろんその「雰囲気」の先に、結構読み解きがいのある大きなテーマが浮かび上がってくるのですが。一見静かなラストシーンがとても印象的。
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