「ウォッカをがぶ飲みして忘れたい一品」チェルノブイリ1986 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
ウォッカをがぶ飲みして忘れたい一品
久しぶりに再会した消防士と理容師のラブロマンス映画として始まります。
最後まで観ると、ふっ、姑息な・・・
最近、モノクロのソ連時代の映画(親愛なる同志たちへ)を観たばっかりなのに、今夜の仕事帰りに観ようと思っていたお馬鹿テレビドラマの劇場版というお気楽な「ラジエーションハウス」の開始時間に間に合わなかったもので、つい、放射線繋がりで観てしまいました。
急性放射線障害の勉強にはなります。放射線に弱い人は一定の確率でいますが、放射線に強い人なんかはいませんので、スーパーマンと勘違いしないで頂きたい。
ソ連(ロシア)のプロパガンダ映画と言ってよいでしょう。ウクライナに現存するチェルノブイリ原発。最初からなんかあったら、地元にすべて押し付けようとしていたかもしれない人災です。命をなげうって我が子を生かそうとする男を美化して、同胞(同志)の勇気ある愛国心を煽っています。共産党統治下にある国の党関係者に優遇される特権(この映画では医療の進んだスイスに空輸で運んで助けてもらえる)がストーリーの大きな前提になっています。我が夫と息子を自分の特権を利用してでも安全な他国に逃そうとした母親の映画「アイダは何処へ」も思い出さます。実際に位の高い党関係者は送られたかもしれませんが、チェルノブイリの初期消火に当たった消防士たちがそのような特権的優遇措置の恩恵にあずかれたかは甚だ疑問です。
東海村の臨界事故の犠牲になった方も手の施しようがなく、痛み止めや麻薬で経過を観察されてお亡くなりになったと伺っております。この映画に出てくる放射線科医師の女医さん(二キータ)もはっきり言って国家の手先で詳細なデータ収集が任務だった可能性が高いです。主人公が彼女に気があるような描き方も糞です。手の施しようがないほどの被曝に特効薬などありません。あの子供が助かったなんてことは幻想です。フジカシングルエイトみたいな8ミリカメラは懐かしかったですが。スイス(永世中立国)に送れば助かるなんて大嘘です。昔、ハバロフスクの大火傷を負った子供を人道的に日本の医療機関が全力で助けた事例とは全く異なる事案です。
子どものころ(50年前)、冒険王という漫画雑誌がありまして、石ノ森章太郎先生の読み切りがありました。宇宙ステーションに乗せられた囚人の男が核の脅威を省みずに人類の未来のために故障したバルブの栓をどろどろに溶けながらも敢行する漫画でした。強烈なテーマで今も記憶しています。核の恐ろしさと自己犠牲に絡んだ嫌な記憶です。若い人たちには唯一の被曝国の漫画家が50年前に予測しえた惨劇が今も起こりうる現実にむしろ驚愕して、人類の未来のために勇敢に行動して貰いたいです。
土曜日のデートで観に来ていたカップルさんはエンドロール早々に出て行かれました。大正解。
お金と時間に余裕のある方はどうぞ。時間を大切にしたい方は、放射線障害についてググって勉強する方がよっぽどよいかか思います。
ご免なさいね。映画ファンの夢をくじくような書き込みで。
どうか、第三次世界大戦がおきませんように。アーメン。