「微笑みがえし♪」ハウ kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
微笑みがえし♪
また個人的な話から入ります。先日、駅構内からお乗せした40代の女性客。県内でも陽性者も拡大しているので、お客様との会話がめっきり減ってしまった昨今。静かに運転していると、突如異質な声が車内にこだましました。
「ニャー!」
(ニャー??)
瞬間、女性が受け狙いでネコマネをしたんじゃないかと思いつつ、そういえば大きめのリュックを膝の上に抱えていたのを思い出し、「猫ですか?」と切り出しました。そこからはもう堰を切ったように会話がはずみ、保護猫について詳しく説明をいただきました。多分保護犬も一緒だと思いますが、新たに飼い主になるには信じられないほど厳しい条件、審査があるとのことでした。
詳細は省きますが、この作品の主人公民夫には「独身」「家を8時間以上空ける」といったことが里親の適格条件に引っかかっているので、多分上司の妻がシェルターで働いているので甘かったのでしょう。ただし、物語の性格上、元の飼い主がいる必要があるのでしょうがないのかもしれません。
ストーリーはそうした保護犬ハウと楽しい時を順調に過ごしていたものの、迂闊に居眠りしたために失踪してしまい、横浜から遠く離れた青森まで運ばれてしまったというもの。言ってみれば犬のロードムービー。映画でも知っている限り『名犬ラッシー』から始まり、数多くの飼い主を探す作品があります。珍しい漫画もあったのですが、たしかコンタロウ氏だったかなぁ。犬が旅する物語なのに衝撃の結末があるというものでした。
さて、今作ではラッキー、ハウ、ポチ、ブンなどと名前を変え、東北・関東地方を旅する犬の物語。悲しんでいる人に前向きになれる魔法をかけるかのようなファンタジー色もあったりしました。また、岩手県では『いぬのえいが』でも最高に笑えた田中要次の出演。友情出演みたいなものか?そして、栃木では宮本信子に石橋蓮司というベテラン俳優。とにかく豪華。
福島では今でも「放射能」だとかイジメがあることを再認識させられるし、非正規雇用の問題やシャッターストリートを描いたり、DV夫という社会派的な部分も。旅のメインは群馬の教会での出来事。とにかく、DVの凄さが窺えるほど狂気に走る男を描いています。そこでのハウの名前はフランチェスコ!聖人ですか?!あ、いや聖犬ですね・・・ちょっとやり過ぎ感もたっぷりだったし、あり得ない現場に遭遇してしまうハウ。まぁ、逃げ込んでいたモトーラ世理奈が最初の飼い主だったためですが。
そして、いよいよ民夫とハウの再会となるわけですが、ここでは予想を覆すようなエンディングとなっています。なぜそのまま民夫がハウを引き取らなかったか?夫を亡くしたばかりの田畑智子と息子は心機一転のため一戸建てに引っ越すのですが、そこが民夫の結婚のため購入し住んでいた家だった。民夫は非正規雇用の池田エライザと上手くいっていたし、ハウや元カノ(深川麻衣)のことを忘れようとマンションに引っ越したばかり。母子がハウ(呼び名はブン)に懐いていたし、マンションでは多分犬を飼えないのだろう。将棋のプロ棋士を諦めたように今回もハウを諦めるという大人の決断をしたのでしょうね。
かつての犬の旅物語りといえば、ほとんどが犯人をやっつけたりすることが多かったと記憶していますが、今作は全く違う。憎き元飼い主であっても攻撃するわけじゃなく、命を救うという救助犬のような働き。そう、フランチェスコと呼ばれたのも聖人のように罪人に赦しを与え、当人に生きる夢を与えてくれるかのような素晴らしいワンコでした。
さて、わが愛犬が亡くなってから1年が過ぎ去りました。たまに思い出すけど、1年間はやっぱり辛かった。晩年はハウのように擦れた声しか出せなかったし、思い出しちゃいました。イヤだわあなた、ススだらけのハウ。何年経っても年下の犬、ハウ。お引っ越しの際に犬を手放した・・・ハウ♪見つめ合ったら本当のお別れなんですね・・・と、キャンディーズの「微笑みがえし」にもピッタリでした。おかしくって涙が出そう。それぞれ、愛する人とともに歩いていくんですね。