「本作が人気シリーズとなったのは指示も的確でスピーディーな手術シーンと畳みかけるようなクライシスシーンにあります。」劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
本作が人気シリーズとなったのは指示も的確でスピーディーな手術シーンと畳みかけるようなクライシスシーンにあります。
2021年にドラマで放送され東京都を舞台に、最新の医療機器とオペ室を搭載した走る緊急救命室(ERカー)で、危険極まりない重大事故・災害・事件の現場に駆けつけ、負傷者にいち早く救命処置を施す救命救急のプロフェッショナルチーム「TOKYO MER」(東京モバイル・エマージェンシー・ルーム)の活躍を描く本格救命医療ドラマです。彼らの使命はただ一つ…『死者を一人も出さないこと』。
物語はTOKYO MERが正式運用を開始してから2年の月日が流れていたある日のこと。横浜・ランドマークタワーで、放火による爆発事故が発生します。数千人が逃げ惑う前代未聞の緊急事態に。地上70階の展望フロアには193名が取り残されているとの情報がもたられます。
爆発は次々と連鎖し、人々に炎が迫り、混乱のなか重傷者が続出しますが、炎と煙で救助ヘリは近づけません。まさに絶体絶命の危機のなかで、神奈川県の要請を受け出動することになったTOKYO MER。
そんな彼らの前に現れたのは横浜市に創設された厚労省直轄の救命救急チームYOKOHAMA MERでした。展望フロアに取り残された人々を救出に向かおうとするチーフドクターの喜多見幸太(鈴木亮平)に対してYOKOHAMA MERチーフの鴨居友(杏)から待ったをかけられてしまうのです。TOKYO MERのモットーである「待っているだけじゃ、救えない命がある」と、対するYOKOHAMA MERのモットーは「危険を冒しては、救えない命がある」とまさに正反対の考えを持っていたのでした。そして背景には、ふたつのチームの対立を煽り、TOKYO MERを自分たちの管理下に置きたい厚生労働大臣の両国隆文(徳重聡)が暗躍していました。
そんな中、193名の中に喜多見と再び再婚した千晶(仲里依紗)の姿もありました。千晶は妊娠後期で、切迫早産のリスクを抱えていたのです。現場に突入した喜多見は医者として、夫婦として最大の決断を迫られる事になります。絶望的な状況の中、喜多見の脳裏には2年前喜多見から処置を受けるも、治療の甲斐なく息を引き取ってしまった妹の涼香(佐藤栞里)の悲劇がよぎります。涼香の死によって打ち砕かれた死者ゼロと言う信念。もう誰も、死なせはしない!喜多見とTOKYO MERの戦いが始まります。
いつもながらTOKYO MERのメンバーは、どんな危険も顧みず、レスキュー隊隊員たちと一緒に現場に取り込んでいきます。毎回無事助かっているからいいものの、あんなこと毎回やっていたら、絶対にどこかで犠牲者が出て、統括する赤塚梓知事(石田ゆり子)の責任問題となっていたことでしょう。それでも「死者ゼロ」を合い言葉に、無謀な救助活動にのめり込で行くところが、ドラマ的には面白いところ。
でも現実に考えてみたらYOKOHAMA MERの鴨居の信念である危険を冒しては、救える命も救えなくなるではないかというのももっともなものです。ただ本作では、今手を差しのべなければ救えない命がある事態に直面して、そんな鴨居の考えがどう変わるのかということが本作の見どころです。
またドラマ版でチームを離れ厚労省MER推進部統括官としてMERを全国の政令指定都市に拡大する計画を進めていた音羽尚(賀来賢人)は、今回のランドマークタワーの火災現場ではMER統括官として全体指揮を執っていました。鴨居とは昔恋人の関係にありました。また上司が両国大臣であることから、当初は喜多見の行動を監視し、押さえ込む役割を演じていたのです。しかし、昔の仲間がピンチに陥ったとき、官僚の仮面をかなぐり捨てて、ドクターとして覚醒する音羽の本心を見せるところもよかったです。
さらに喜多見と涼香に好意を寄せていた音羽を突き動かす涼香を死なせてしまった喪失感が、救出劇全般に色濃く漂うことも、ドラマ版を見てきたものにはこころ打つ展開となりました。
ところでドラマ版の最後の最後で喜多見は見事と別れてしまっていた千晶と再婚にこぎ着けたというのに、離婚の原因となった家庭を顧みず仕事にのめり込むことを、またやらかしてしまっています。千晶は切れて横浜の実家に帰ってしまい、今回の事故に巻き込まれてしまうのです。喜多見の見せるうろたえぶりは見物でした。
救出を通じて深まった夫婦の絆。本当にお幸せにといいたいですね。
松木彩監督は、日曜劇場で福澤監督と『半沢直樹』や『下町ロケット』などの人気作を演出してきました。本作が人気シリーズとなったのは指示も的確でスピーディーな手術シーンと畳みかけるようなクライシスシーンにあります。
劇場版は、ドラマ版を見ていなくても楽しめるないようになっていますので、ぜひご覧になって救命医療のあり方やドクターカーの必要性について考えてみるきっかけとなればいいと思います。