「うーん、趣旨はわからなくないけど、もう少しちゃんと調べてほしいです…。」劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
うーん、趣旨はわからなくないけど、もう少しちゃんと調べてほしいです…。
今年140本目(合計791本目/今月(2023年4月度)35本目)。
「高速道路家族」から70分で移動してこちらの作品へ。
ドラマ版(テレビ番組版)などもあるそうですが、そちらは見ていないほうです。
…といっても、映画のストーリー自体はほぼほぼ一本筋ですし、時間の巻き戻し処理も2回か3回かくらいで、それほど難しいストーリーの理解は求められないところです。
気になった点は2点で、特に後者のほうは法律系資格持ちなのでかなり気になったところです。
まず前者は「この映画が扱う特定の災害に対してトラウマなどを抱える方に対する配慮がやや足りない」というものですが(これがさんざん言われたのが「すずめ~」だった)、この映画はそうはいってもテレビドラマ版があり何を扱うかは明白なので、それを見ていないほうが悪い、とも言えます。まぁここは引いても減点0.1くらいでしょう。
ただ個人的には後者の法律的な解釈についての理解がかなり甘く、何がどうなっているのか…という点がかなり気になります。災害時といった特殊な状況下において特別に発動される法はなく(一部除く)、民法をはじめとした一般法で処理されるので、その観点で見るとかなり傷は大きいです。
個々個々気が付きにくい点があるのですが、それでも行政書士でも資格を持っているとわかってしまう点なので…。ここは「ある程度」ケアが欲しかったです(法律的な観点での監修はどうもされていないようです)。
採点は下記の通りで3.8を4.0まで切り上げています。
個人的に二捨三入(七捨八入)を採用しているので、3.7だと3.5になりますが、3.5評価は過去に2つしかなく、それらはかなりの傷が見られるところ、この映画は単に「詰めが甘い」だけであり、積極的な意味で変だったりというところではない、というところで、1.2減と1.3減は使い分けています。換言すればこの0.1で「調整弁」を図っている形です。
(減点0.4) (緊急)事務管理と無権代理
事務管理において、管理者は本人からあらゆる代理権を与えられているのではなく、対外的に第三者に指示を出したり契約を結んだりすると、表見代理の条件を満たさないなら単なる無権代理にしかなりません(昭和30最高裁)。このことはこの映画のストーリーでいう緊急的な場合(あるいは、緊急事務管理が成り立つ場合(民法698))においても同様です。
なお、映画内でAED等を使用しているところがありますが、それは、彼ら彼女らがとっている行為が緊急事務管理(698)であるため、「悪意または重過失」(ここでいう「悪意」は通常の日本語の意味。「積極的悪害」に近い)がなければ責任を負うことはありません。ただ、このことはリアル日本でもAEDの使用について国民の間でもためらいが見られる(特に女性に対して行った場合に民事裁判を起こされたりすることを恐れて処置を施さない等)のも事実で、こういう映画であるからこそ、ここはちゃんとした説明が欲しかったです。
(減点0.4) 夫婦の相互代理権と民法110条(権限踰越(けんげんゆえつ)の表見代理)
夫婦には相互の代理権がありますが、それを基本代理権として権限踰越の表見代理(元の基本代理権を超える代理をすること)が成り立つかどうかは、ケースバイケースです。最高裁判例は「個々個別の状況を見て、それが対外的にわかる場合については類推適用して基本代理権の権限踰越として処理する」というものであり、映画内の描写は不自然な部分があります。
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※ 単独で110条が適用されるケースとして、「当分海外に行くから、自宅を賃貸して家賃を得たいから交渉してくれ」という代理権を与えられた人が、「賃貸」を超えて「売買までしてしまう」というようなケースが代表的です。
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(減点0.4) 官僚の言っていることが無茶苦茶
消防について各都道府県を監督するのは総務省です(厚生労働省ではない)。また、この映画で出てくる官僚の方々、やることすること無茶苦茶で(まぁ、それが映画の一つのアクセントとはいえる)、学問上の行政組織法(行政の組織の上下関係、指揮命令等がどのようになっているのか、等を定める法律を寄せ集めをパッケージ化したもの)の解釈が不十分なため、無効な行政行為とみなされ、無視される可能性があります(無効な行政行為には公定力(国民を拘束する力)が発生しない)。のみならず、何人ともそれを無視することができ(無効な行政行為に拘束はされない)、最悪、災害現場の中で無効等確認訴訟(行訴法)を起こされる可能性もあります。
この点、消防の監督が総務省であるとか、たとえ「別の省」(ネタバレ回避)であろうが、いずれにせよ「法の権限を越えて勝手に指揮命令権がない」ことは常識扱いであり、ここはかなりの傷になるように思えます。ただここは指摘もしますし減点幅も大きいですが(行政書士の資格持ちとしては「この減点」は極めてきつく見ざるを得ない)、これをどうこう言い始めると映画のストーリーが0分で終了するという別の問題もあるので(ストーリーが成立しない)、どこまでの減点幅にするかは難しいです(これのみで1.0あたり引かれても文句は言えない)。
決してこういう「ひねくれた」レビューが一般的だとは思ってもいませんが、少なくともそういう観点で見る人は一定数います(リアル救急救命士や医師の方でも違和感があったのではなかろうかと思えます)。この部分について「最低限のケア」がなかったのはちょっと残念に思いました。
とはいえ、これらの指摘はそういった「特殊な属性」(法律系資格を持っている等)がないとできないことで、一般的には救急救命士や医師、消防士等を扱った映画というように多くの方が解されると思いますが、それは換言すれば当然の話であり(子供でさえ理解できる)、一歩踏み込んで「ここは法律的な解釈でどうなっているのか」という点まで踏み込んで検討すると、結構な減点幅があったりするわけです(決してパーフェクトに作ってほしいとは思いませんが、いろいろ変なところがあるので、一部の法律ワードや「法律的なアクション」は無視したほうがよくなる)。