「時代は変われど恋愛は変わらず」リコリス・ピザ ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
時代は変われど恋愛は変わらず
何とも微笑ましい青春ロマンス作品である。いわゆるボーイ・ミーツ・ガール物だが、それを1970年代の音楽とサブカルを織り交ぜながら描いたところに本作の妙味を感じる。ノスタルジックな風情を噛み締めながら、思春期だった頃の自分を重ねながら楽しく観ることが出来た。
1970年代のアメリカといえば、ベトナム戦争やニクソン・ショックで政治的には混迷の時代を迎えていた頃である。しかし、市井の人々の暮らしに目を向ければ現代に通じるポップカルチャーの基礎が創り上げられていった時代で、本作に登場するウォーターベッドやピンボールマシンなどは正にその象徴だろう。そんなポップでライトなテイストが本作全体のトーンにも通底されている。
監督、脚本、共同撮影を務めたポール・トーマス・アンダーソンも、ここ最近続いていたヘビーな作風を封印し、今回は初期時代を彷彿とさせるようなポップ志向に回帰している。昨今の円熟味を考えると、少し拍子抜けな感じもするが、ただデビュー時から天才と評されてきた彼の演出力はやはり堅牢で一つ一つのシーンに見応えを感じた。
例えば、長い会話劇を1カットの移動カメラで紡いだ冒頭のシーンからして唸らされる。あるいは、ガス欠になった大型トラックをバックで運転するシーンのスリリングさも臨場感が感じられ手に汗握った。その直後、まるでガキのように振る舞うゲイリーと、それを遠目に見るアラナの徒労と虚無の表情のギャップも忘れがたい。二人の決別を劇的に表していると思った。
物語もゲイリーとアラナのつかず離れずの微妙な距離感を、周囲の人間との関係を織り交ぜながら手堅く描いていると思った。
ただ、ウィリアム・ホールデンと思しきショーン・ペン演じるハリウッド俳優や、ブラッドリー・クーパー演じるバーブラ・ストライサンドの恋人など、イケイケで強烈な個性を放つサブキャラが少々クド過ぎて、正直自分はそこに余り乗れなかった。もう少し薄味で描いてくれたら、面白く受け入れられたかもしれない。
ラストの締めくくり方は◎。予定調和な感じもしたが、青春ロマンスの王道を行くような結末で個人的には大変気持ちよく映画を観終わることが出来た。
主演二人の演技も良かったと思う。ゲイリーを演じたクーパー・ホフマンはアンダーソン作品の常連だった故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子ということである。父親譲りの冴えないキャラを上手く演じていたように思う。ジャック・ブラックから少しアクを抜いた好青年といった印象である。
アラナを演じたのは3人姉妹のバンドHAIMのアラナ・ハイム。絶世の美女というわけではないが、大変個性的な顔立ちをしており、画面上での存在感は抜群である。アンダーソン監督はHAIMのミュージックビデオを数本撮っているので、その流れから今回の抜擢となったのだろう。
二人とも映画初出演ということだが、演技云々以前にビジュアルがユニークなので個性派俳優として素養は十分に持っていると思った。