「ヤバい大人たちが若い2人に襲いかかる!!」リコリス・ピザ 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
ヤバい大人たちが若い2人に襲いかかる!!
1973年のハリウッド郊外、サンフェルナンド・バレーで、子役上がりの少年ゲイリー(15歳)とカメラマン・アシスタントのアラナ(25歳)が出会い、恋に落ちて、まるで周囲から逃げるように疾走劇を展開する。実年齢以上に世情に精通した15歳と、彼と比較すると、何を始めるにも若干遅きにしした感がある年上の女性。この年齢差も絶妙だが、何しろ、サンフェルナンド・バレーはハリウッド映画ビジネスの魑魅魍魎が集約されたような町。主人公の2人は初恋がしたいのに、青春がしたいのに、彼らの前に次々に登場するヤバい大人たちに邪魔されて、なかなか思い通りに事が進まない。そこが笑える。いわゆる青春映画の普遍性は、ここでは希薄だ。
そのヤバい連中の中でも、監督のP.T.Aが本人と直接会ってキャラ描写を詰めていったという、ブラッドリー・クーパーが演じるジョン・ピータースのぶっ飛びぶりが強烈だ。ピータースはL.A.のロデオドライブでその名を知られた超人気のヘアドレッサーからハリウッドのプロデューサーに転身した人物で、彼が開発したカーリーのショートウィグを当時の恋人、バーブラ・ストライサンドが『スター誕生』(76)で被ったことでも知られる。ピータースは『スター誕生』でプロデューサー・デビューを果たすのだが、その頃の常軌を逸したイケイケぶりをクーパーが怪演していて、若い2人の目の前に覆いかぶさってくるところが見どころだ。
筆者がより興味をそそられたのが、主人公のゲイリーが所属する子役専門のエージェント、メリー・グレイディだ。クレイディも実在するエージェントがモデルだが、相手を値踏みするように小刻みに揺れる視線や、異常なほどの警戒心は(子供相手なのに!?)、ハリウッドの子役ビジネスの熾烈さを想像させて思わず引き込まれてしまった。
そんな風に周囲がキテレツだからこそ、主人公の2人を応援したくなる異色の懐古的業界ドラマ。これはやはり一筋縄ではいかない天才監督の最新作なのだった。