「ふたりのフレッシュな化学反応に魅了されっぱなし」リコリス・ピザ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ふたりのフレッシュな化学反応に魅了されっぱなし
前作で職人の愛を澄み切った映像で掘り下げたアンダーソン監督が、新作ではこれほど快活な恋愛劇を描ききるとは。この人の力量は本当に底知れず、まずもって出会いのシーンから輝きがいっぱいだ。長い行列に並びながらの切れ目なき会話は、相手の返しや表情の変化によって有機的なリズムが生まれ、この時点ですでに彼らの駆け引きに心底魅了されまくってる自分に気づく。これがありきたりな「ボーイ・ミーツ・ガール」ならば話も単純なのだろうが、主人公アラナとゲイリーは、片や歳上、片や早熟の高校生ということもあってなのか、両者ともに主導権を取らないと気が収まらない。それが時に驚くほど破天荒な展開へ振り切れてしまう可笑しさと哀しさ。こんな厄介な感情を持ち合いながら近づいたり離れたりを繰り返す彼らを、不思議と好きにならずにいられない。アラナとゲイリーが一緒にいたら完全無敵。今なお目を閉じると二人の走り出す様がありありと浮かぶ。
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