「芸術家、詩人のある一面を活写した作品」天上の花 トコマトマトさんの映画レビュー(感想・評価)
芸術家、詩人のある一面を活写した作品
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降り積む。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪降り積む。
「雪」のタイトル、三好達治の詩とは知らずとも、何となくどこかで見聞きしたこともあるのではなかろうか。
作品中にも登場人物が、この詩を通じて三好の一面を語っている。
三好達治、抒情詩の名手として文学史に残る詩人だが、その実暴力的な狂性を持ち合わせた男――として映画は彼を描く。
私は、詩と現代詩を2年前から読み、そして自分でも書く(note 町谷東光で検索してね)ようになり、初めて三好や本作にも登場する萩原朔太郎の詩に触れた。
たかだか2年、しかも還暦間際になってそんなことを今もやっている男である。
この映画については、映画としての評価はギリギリ★4つ、こういう地味なテーマに光を当てて作品化、公開した関係者の努力、さらにいうと価格1000円ながら、読みでのあるパンフレットを評価して、★5つをつけたい。
鑑賞日は日曜日の午後。東京ではもう公開も終わりに近いこともあって、80席余りの館内には年齢高めの映画ファン、詩の愛好者(?)が30人余り入っていた。
芸能人としては、いろいろとやらかしてスキャンダル俳優の色がついてしまった主演の東出だが、もともと柄も顔もいいんだし、この手の役柄にはぴったり。
あの演技をうまい、とまでは言わないが、表現者というのは表の部分だけでなく、全体から漂う、漂わせる雰囲気も非常に大事。現状の彼にはそれがある。
テレビでは使われない(当面? 当分?)役者だけに、ギャラもそこそこであれだけの働きをする、制作者側には使い勝手のいい俳優なのかも、といういじわるな見方も個人的には抱くけれど。
東出といえば、来年3月公開予定の「Winny」(試写で鑑賞した)でもなかなかの怪演ぶりを見せている。表世界で再び活躍できる日が来るかどうか…。
一方、本作で初めて私が認識した女優、入山法子。どこかで見たことある風貌、スタイル――。
1980年代に人気のあったモデル、甲田益也子(こうだみやこ)かと思った…(笑)。
入山もモデル出のようで、しかもそこそこ長く女優もやっているというのに、まったく私は知らなかった。
長身の東出と釣り合う、これまた柄のよい入山。もうちょっと人気、認知度が上がってもよさそうなもんだが…。
おっと、ちょっと脱線した。
三好や朔太郎などの、昭和戦前期の詩壇に関心がなかったり、知識がなかったりしても、一人の芸術家、詩人がもつ凶暴性がどう存在したか。それをスクリーンから読み取り、感じ取れる良作だ。
冬の日本海の景色、てっきり福井で撮ったものかと思ったら、福井から結構距離のある新潟・柏崎というのは残念だが、海の景色、空、森などロケ場面も含めて、映像もいい出来栄えである。
いずれにせよ、もうちょっとうまくプロモーションできなかったろうか。映画好きでも詩に関心がない人には手が出にくい、足は運び難い作品。
凶暴な男とそれでも生活を共にしていた女――。今の時代なら、いや今の時代にも結構存在する男女の関係。そう、暴力による支配と被支配。そんなものを作品のフックにできなかったろうか。
描く世界はまったく違うが、時代的にはヒット中の「ラーゲリより愛を込めて」(僕も★4つつけて褒めたが)と同じだろうに。
公式HPのメーンコピーは、
「あなたがどんな詩を書いたって、日本は戦争に敗ける」
になっているが、これじゃ、客は呼べんでしょう。
まだ、予告編の中にある
「時代に翻弄されつつ、詩と愛に葛藤しながら
懸命に生きてきた者たちへの鎮魂歌」
こちらのほうが、まだ近い。何も訴えてこない下手なコピーだが。
せっかくの作品も、売り方(宣伝)の力不足で浸透せずにフェードアウトという印象である。
寺脇研さんも、官僚ぶってカッコつけてんじゃなく、捨て身の宣伝をしなきゃ…。←蛇足。
もう一つ蛇足。
久々に新宿武蔵野館に行ったが、あそこは館内に金をかけていろんなものを展示している。映画ファンの気持ちをくすぐってくれる。本作の大きなパネルや、出演者のサインとかも、ファンにはうれしい展示だ。プログラムを入れる袋もタダだし。
TOHOシネマズなんか、極力行かないようにしよう。
佐藤智恵子の記述につきまして、ご親切なご指摘下さり、ありがとうございました。モデルの甲田さんをググりました。入山法子さんにとてもよく似てますね。記憶力悪いので、合ってないと思いますけど、入山法子の「日本が戦争に負けて、あんたみたいな(女に手をあげるような)男はうんと肩身の狭い思いをする世の中になればいいんだわ!」的なセリフが印象的でした。まあ似た者同士というか、どっちもどっちなんでしょうけど、一時的にせよ、かなりウマが合ったんじゃないんでしょうかね。